従来の免疫法と比べて100倍高い検出感度
東京医科歯科大学は4月19日、ヒトインフルエンザウイルスを選択的に捕捉する新たな導電性高分子を開発したと発表した。この研究は、同大生体材料工学研究所バイオエレクトロニクス分野の合田達郎助教・宮原裕二教授と、医歯学総合研究科ウイルス制御学の山岡昇司教授らの研究グループによるもの。研究成果は「ACS Applied Materials Interfaces」オンライン版に4月5日付けで掲載されている。
画像はリリースより
インフルエンザは毎年、世界中で300万~500万人が感染し、25万~50万人が死亡すると言われている。近年、強毒性の鳥インフルエンザなど、新型インフルエンザの流行が危惧されており、迅速かつ高精度にインフルエンザウイルスの型を判別する必要があるが、従来の免疫法や遺伝子解析法などによるウイルスの検出は感度・時間・コストの問題がある。さらに、病院へ行かなければ診断ができないというインフラの問題があり、インフルエンザの感染拡大を防止するには現状は不十分である。
研究グループは、インフルエンザウイルスの型を識別するために、ウイルス表面のタンパク質(ヘマグルチニン)がヒトなどの動物へ感染する際に細胞膜表面に存在する糖鎖の種類の違いを認識するという分子機構に着目。また、その場診断が可能な電気的インフルエンザウイルス検出を実現するために、電気伝導性が高く、化学的に安定で、希少元素・有害元素を含まない、インク液として材料に塗布・修飾できる、といった多くの利点をもつ導電性高分子(PEDOT)と呼ばれる機能性プラスチックに着目した。そして、A型インフルエンザウイルス(H1N1)が認識する糖鎖配列を組み込んだ導電性高分子を新たに合成し、さまざまなセンサー表面に修飾したところ、目的の型のウイルスのみが選択的に結合することを確認した。さらに、電気的計測法において、ウイルスの検出感度は従来の免疫法と比べて100倍高いことが判明したという。
マスクと一体となったウエアラブルセンサーなどへの開発応用へも期待
ウイルスの感染機構に倣った分子認識システムは汎用性が高く、糖鎖の種類と配列を変えることで異なるウイルスの検出にも対応できるという。開発された導電性プラスチックは、その場での診断を可能にする小型化・微細化・低コスト化・省エネ化に適した電気的なセンサーの開発に繋がるものとなる。特にマスクと一体になったウエアラブルセンサーが開発できれば、インフルエンザ早期診断の実現によって薬の処方が有効となり、感染の拡大防止に繋がる。
また、ポータブルな検出器を用いれば、感染した患者が人混みから離れた自宅等で検査することによって、二次感染を未然に防げるというメリットも考えられる。ウエアラブルセンサーは、既存の検査方法と異なり、インフラ施設が不要であることから、過疎地域、あるいはアジア・アフリカ等の新興国等におけるウイルス検査という新しいニーズを創出することが期待できると研究グループは見ており、将来的には、GPS情報と融合させたビックデータとして、疫学的な知見を得ることも可能になると予想されると述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース