Na-K-Cl共輸送体が骨格筋の形成・肥大の制御因子に
東京医科歯科大学は4月14日、ループ利尿薬のターゲットでもあるNa-K-Cl共輸送体(NKCC)が、骨格筋の形成、肥大の制御因子であることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一教授、萬代新太郎大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は国際科学誌「Scientific Reports」に4月18日付けで掲載されている。
画像はリリースより
骨格筋量や筋力が低下した状態を指すサルコペニアは、心疾患、腎疾患、がんといった疾患により発症するが、加齢によっても進行することが知られている。一般的に20~30歳と比較すると70歳までに筋力は30~40%減少し、50歳以降毎年1~2%程度筋肉量は減少すると言われている。サルコペニアを治療することは介護や寝たきりの予防、寿命自体の延長につながることが期待され、近年注目されているが、その病態は十分に解明されておらず、運動療法や食事療法以外に、有効な治療法が確立していない。
NKCCは、細胞膜でナトリウム、カリウム、クロールイオンを輸送する膜タンパクで、腎臓や血管において血圧や尿からの塩分排泄調節に関与する。NKCCの阻害剤であるループ利尿薬は、心疾患、腎疾患といった浮腫性疾患や高血圧に対し広く一般的に用いられる有効な治療薬。以前から哺乳類の骨格筋では、特にクロールイオンの膜輸送機能が加齢や腎不全によって低下することや、運動により増加することが知られているが、それを司る骨格筋NKCC1の骨格筋細胞の分化や肥大における役割はこれまで知られていなかった。
ループ利尿薬が骨格筋形成、肥大を抑制する方向に作用
研究グループは、骨格筋分化モデル細胞であるC2C12マウス骨格筋細胞において、分化誘導を行うとNKCC1のタンパク発現量が複数の分化マーカー遺伝子群とともに経時的に増大することを発見。さらに、ループ利尿薬であるブメタニド、フロセミドを使用しNKCC1を阻害すると、筋管細胞の癒合の程度や筋形成の指標であるfusion index、分化マーカー遺伝子群のタンパク、mRNA発現量がいずれも抑制されることを示した。これにより、ループ利尿薬が筋形成の抑制に関与している可能性を示した。また、自発的な回し車運動モデルマウスを用い6週間の運動トレーニングを行ったところ、運動を行ったマウスでは骨格筋のNKCC1発現量の増加、筋線維断面積の増大を認めた。その一方で、ブメタニドの高用量(10mg/kg/日)、および利尿作用を伴わない低用量(0.2mg/kg/日)の腹腔内連日投与を同時に行ったマウスにおいては、運動による筋肥大効果が抑制されることがわかったという。
NKCC1が骨格筋の分化・肥大の制御因子でありサルコペニアの病態に関与することが明らかとなり、サルコペニアの新しい治療戦略への応用が期待される。また、ループ利尿薬が骨格筋形成、肥大を抑制する方向に作用している可能性が明らかとなった。人での検討を待つ必要があるが、今回の研究成果は疾患の必要度に応じたループ利尿薬の適切な使用を推奨する基礎データになるもの、と研究グループは述べている。
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