人種差があることが示唆されていた疾患感受性領域分布
理化学研究所は4月18日、日本人集団の大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、心房細動の新しい感受性遺伝子の同定に成功したと発表した。この研究は、理研統合生命医科学研究センター統計解析研究チームの鎌谷洋一郎チームリーダーら研究グループによるもの。研究成果は、国際科学雑誌「Nature Genetics」オンライン版に4月17日付で掲載されている。
画像はリリースより
心房細動の発症原因として、これまでは心血管系の器質的疾患などの臨床的要因や飲酒などの環境的要因が研究されてきた。一方、遺伝的要因については、GWASと国際的なメタ解析で14個の心房細動感受性遺伝子領域が同定され、「PITX2遺伝子」が心房細動の発症リスクと相関していることがわかっていた。しかし、これらの疾患感受性領域の分布には人種差があることが示唆されており、超高齢社会の日本にとって心房細動は重要な疾患となるため、日本人のサンプルを用いた遺伝子解析の必要性が高まっていた。
そこで研究グループは、バイオバンクジャパンのサンプルを中心に日本人集団で大規模な解析を行うことで、日本人における心房細動感受性遺伝子の解明を試みた。また、心房細動ゲノム解析研究国際コンソーシアム(AFGenコンソーシアム)に協力し、欧米人との比較を実施。これらGWASで検出される疾患感受性遺伝子群を用いたパスウェイ解析を通じて、心房細動の発症メカニズムの解明にも取り組んだという。
多人種間共通、または日本人で有意な遺伝子領域が明らかに
研究グループは、日本人集団における心房細動患者8,180人と対照者2万8,612人に対してGWASを行い、再現性を確認するために患者3,120人と対照者12万5,064人に対してGWASを追加で行った(合計:患者1万1,300人、対照者15万3,676人)。これら2つの結果を合わせてメタ解析したところ、6つの遺伝子領域が心房細動のなりやすさに関係する遺伝子領域として検出。これらの領域上にある遺伝子のうち「PPFIA4遺伝子」、「SH3PXD2A遺伝子」は神経系回路形成に重要な軸索形成に関与する遺伝子群だった。さらにパスウェイ解析の結果、神経堤細胞分化経路が心房細動の発症に関与していることが示された。
次に、心房細動の遺伝的要因の人種差を検討するためにAFGenコンソーシアムで行った欧米人のGWASの結果と比較。その結果、新たに発見した6つの遺伝子領域のうち5つが日本人集団のみで有意に関係することがわかり、心房細動の遺伝的要因における人種多様性が示された。
さらに、過去に明らかにされた9個の感受性遺伝子上の一塩基多型(SNP)と今回のGWASで明らかになった6個の感受性遺伝子上のSNPのジェノタイプデータを用いて遺伝的リスクスコアを作り、心房細動の発症のしやすさを検討。その結果、リスクスコアが高い群は低い群に比べて、約7倍心房細動を発症しやすいことが判明した。しかし、この結果については、将来的に他の研究でもスコアの有効性を確認する必要があるとしている。
一方、AFGenコンソーシアムが中心となった研究では、心房細動患者1万8,398人と対照者9万1,536人を用いて31の研究結果のGWASメタ解析を行い、10箇所の新しい感受性遺伝子領域を同定。また、心房細動患者2万2,806人と対照者13万2,612人のエキソームチップを用いた関連解析では、17の研究結果のメタ解析を行い、さらに2つの新しい疾患感受性遺伝子領域を同定した。
加えて、同じサンプルを用いた、頻度の少ないレアバリアントに着目した解析では、「SH3PXD2A遺伝子」が主にアジア系人種において有意に心房細動発症と関係していることが判明。また、人種特異的GWAS解析では、「PITX2遺伝子」の上流領域(4q25)がアフリカ系アメリカ人、欧米人、アジア人で最も強く心房細動発症との関連を示したという。しかし、「12p11/PKP2遺伝子」は、欧米人のみで有意に心房細動発症と関連したとしている。
一連の研究により、多人種間で共通、または日本人で有意な心房細動感受性遺伝子領域が明らかになった。今後、これらを手掛かりに心房細動発症の詳細なメカニズムの解明や、メカニズムに関連した分子ターゲットの発見によって、疾患に効果的な創薬につながると期待される。また、同定されたSNP群は、心房細動の発症リスクを予測する疾患遺伝子マーカーとしての活用が期待される。
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