強膜の主成分であるコラーゲンと線維芽細胞の減少に着目
東京医科歯科大学は4月7日、ラットの近視進行モデルにおいて、眼球壁である強膜周囲にヒト線維芽細胞を移植することにより、強膜を補強し近視進行を抑制できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科眼科学分野の大野京子教授と吉田武史講師の研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Tissue Engineering and Regenerative Medicine」オンライン版に4月12日付けで掲載されている。
画像はリリースより
近視は世界において最も多い視覚障害。眼軸長が延長することで近視は発症進行していくが、高度な近視に達すると、眼球の異常変形をみるようになり、結果として重篤な網膜や視神経の障害をきたすこともある。これまでに、近視進行抑制治療として眼軸長の延長を抑える試みはこれまでに世界各国でも行われてきたが、安全性が高く、効果が確かである近視進行抑制治療は未だ確立されていなかった。
今回、研究グループは、近視眼の強膜が眼球延長に伴い、厚さが薄くなるだけでなく、強膜の主成分であるコラーゲンとコラーゲンを生成する線維芽細胞がともに減少することに着目。線維芽細胞を強膜周囲に移植し、コラーゲンを生成、定着させることで強膜を補強すれば、眼軸長の延長を抑制できるのではないかと考えた。
眼軸長の延長と屈折度を線維芽細胞非移植群に比べて40%抑制
研究グループはこれまでに、3週齢のラット眼に閉瞼処置による視覚遮蔽をすることにより実験的に近視を誘導できることを確認している。今回の実験では閉瞼処置と同時に、眼球周囲に線維芽細胞を移植し、処置から4週目に眼球の様子を観察。その結果、眼軸長の延長と屈折度は線維芽細胞非移植群に比べ、ともに40%抑制できることが明らかになったという。また、眼球を摘出し、眼球に定着したコラーゲンについて組織染色を行ったところ、強膜外層に新しいコラーゲンの層が形成されており、強膜を補強していることが明らかになった。これらの結果から、線維芽細胞の眼球周囲への移植による強膜へのコラーゲン供給が、眼軸長の過度な延長を抑制し、結果的に近視進行を抑制できることがわかったという。
この細胞移植を用いた近視抑制実験は世界で初めての試みとなるもの。線維芽細胞は皮膚より容易に採集が可能で、培養も容易であることから、自己移植が十分可能になると考えられるという。ヒトへの応用を考えた場合も、このシステムでは自分自身の細胞を用いる自己移植が十分に可能であることから、移植手術でたびたび生じる拒絶反応の問題を考慮する必要がなくなるため非常に有益な治療法であると考えられる、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース