未だ不明な点が多い慢性腎臓病の病態と腸内細菌叢の関与
東北大学と慶應義塾大学は4月13日、慢性腎臓病の病態における腸内細菌叢の関わりを明らかにしたと発表した。この研究は、東北大学大学院医学系研究科病態性制御学分野および医工学研究科の阿部高明教授と三島英換医学部助教、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授(JSTさきがけ研究者)を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、国際腎臓学会学術誌「Kidney International」電子版に4月10日付けで掲載されている。
画像はリリースより
高血圧や糖尿病などの種々の原因により生じる慢性腎臓病は、慢性の経過で進行性に腎機能が低下する病態。最終的には透析が必要となる末期腎不全に陥るのみならず、脳心血管疾患の発症率や死亡率が高まる。慢性腎臓病は、日本の成人の8人に1人が発症するが、現時点では進行した慢性腎臓病を改善する治療法に乏しいため、その病態を解明し、進行を抑制する新たな治療法の開発が求められている。
慢性腎臓病の病態においては、腸内細菌叢の変化や腸管壁の性状変化など、腸内環境の変化が報告されており、腸管は腎臓と相互に影響を及ぼしているという「腸腎連関」の存在が近年明らかになりつつある。そこで、腸管という観点から腎臓病の病態を解明し、腎臓病に対する新たな治療法を目指すことが注目されているが、慢性腎臓病の病態において腸内細菌叢がどのように関与しているか未だ不明な点が多いのが現状だ。
腸内環境をターゲットにした腎臓病の治療法開発など臨床応用に期待
今回、研究グループは、腸内細菌叢を持たない無菌マウスと腸内細菌叢を有する通常飼育マウスを用いて、それぞれ腎不全モデルマウスを作成。血液、尿、便のメタボローム解析を行うことで体内の代謝物質にどのような違いが生じているかを網羅的に解析した。その結果、腸内細菌叢の有無は腎不全時の血中における代謝物質に大きな違いをおよぼすこと、そして腎不全時に体内に蓄積しさまざまな毒性を発揮する尿毒素のうち、11種の尿毒素が腸内細菌叢の影響を大きく受ける「腸内細菌叢由来の尿毒素」であることを明らかになったという。
さらに体内での代謝物質プロファイルを検討した結果、これらの腸内細菌叢由来尿毒素は(1)100%腸内細菌叢由来の尿毒素、(2)腸内細菌叢と宿主の代謝由来の尿毒素、(3)腸内細菌叢代謝と食事成分由来の尿毒素、の3つに分類されることが判明。さらに、これまで腸内細菌叢の関与が知られていたインドキシル硫酸といった尿毒素は100%腸内細菌叢に由来する物質であることを確認した。さらに、同様に腸内細菌叢によって産生され動脈硬化の原因になるトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)は、腸内細菌叢由来に加えて食事成分由来のTMAOも腎不全時に体内蓄積することが明らかになったとしている。
このように、腸内細菌がいない無菌の腎不全マウスでは腎臓病の進展や心血管障害の悪化に影響する尿毒素類が減少したにも関わらず、無菌マウスは腸内細菌叢を有する通常マウスよりも腎機能障害が悪化しやすいことがわかった。これは、腸内細菌叢は尿毒素産生という腎臓病にとっての「負の面」のみならず、何らかの腎保護的な「正の役割」も果たしていることを示唆している。今回の研究では、腸内細菌叢は腎不全状態においても腸管内での短鎖脂肪酸産生やアミノ酸代謝に大きな影響を及ぼしていることが明らかになっている。短鎖脂肪酸やアミノ酸は、免疫制御や栄養シグナルを介して腎保護的な役割を担っていることが近年報告されていることから、腸内細菌叢は免疫や栄養面から腎保護的な役割を果たしていることが考えられるという。
今回の研究では、腸内細菌叢が腎臓病に対して良い面と悪い面の二面性を有しており、腸内細菌叢のバランスの制御が慢性腎臓病の進展予防に重要であることが示唆された。これは、慢性腎臓病の病態における腸内細菌叢が果たす役割の一端を明らかにしたものであり、今後は腸内環境をターゲットにした新たな腎臓病の治療法開発等の臨床応用への発展が期待される、と研究グループは述べている。
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・東北大学大学院 医学系研究科・医学部 プレスリリース