■販促目的のデータ収集か
バイエル薬品の営業社員3人が2012年と13年に、少なくとも約180人分のカルテを患者に無断で閲覧し、データを収集していたことが明らかになった。同社は、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の「イグザレルト」の発売前後に、同じ領域の他社薬剤の服薬状況を把握するために診療所医師の協力を得て患者を対象に調査を実施したが、その際に同社の社員が無断でカルテを閲覧した。同社は「社内審査体制をより徹底し、社員への教育を一層強化する」としている。
この調査は、1軒の診療所を受診する血栓症領域製剤の服薬患者を対象に、その剤形や服薬回数など「服薬に関する嗜好」の聞き取りを行ったもの。少なくとも12年に148人、13年に30人の患者を対象に実施した。診療所の医師が聞き取ることになっていたが、その過程で同社の営業社員が不適切に関与し、患者に無断でカルテを閲覧し、データを収集していた。
同社は、患者の同意を得ずに社員がカルテを閲覧したことが「不適切」だったとしているが、そもそも部外者であるバイエル薬品の社員が患者の同意を得てカルテを閲覧する調査が成り立つことは想定しづらく、調査の実施要領から逸脱した行為だったと見られる。
なぜこのような逸脱行為が起こったのか。一部報道では、上司からの指示によって現場の営業社員が行ったとされているが、同社は現時点では「検証中」とし、詳細を明らかにしていない。今後、外部の専門家を交えて事実関係や問題の原因や背景などを検証し、公表するとしている。組織ぐるみの行為だったのか、現場の判断によるものなのかが焦点になる模様だ。
12年に新発売したイグザレルトは、1日1回1錠を服用するだけで済み、食事制限もないため、既存の同効薬に比べてアドヒアランスを長期間維持しやすいことが特徴。同効薬の服薬状況と照らし合わせてイグザレルトの特徴を際立たせることは、マーケティング戦略の構築や販売促進に役立つため、今回の調査を実施したと見られるが、同社は調査の概要についても情報を開示していない。
今回の調査結果は医学誌に掲載されたが、16年1月に取り下げられた。社員が患者のカルテを不適切に閲覧していたことや、調査の実施主体が同社であることが明確にされていなかったことなどから、掲載取り下げとなった。
関わった営業社員の告発によってこの問題が表面化した。同社は昨年から社内のコンプライアンス調査を開始。厚生労働省も知る事態となり、事件が発覚した。
■塩崎厚労相「極めて遺憾」
今回の不適切なカルテ閲覧について、塩崎恭久厚生労働相は11日の閣議後会見で、「患者の信頼を得ながら事業を行うべき製薬企業が不適切なアンケート調査を行ったことを自ら認めたわけで、極めて遺憾なこと」との見解を表明。厚労省として、バイエル薬品に対して不適切事案の状況について説明を求め、事実関係の確認を進めているとし、同社の今後の対応を踏まえた上で、「必要に応じてしかるべき対応を取らなければならない」との考えを示した。