脳梗塞、クモ膜下出血、脳内出血、3タイプの脳卒中に関与
岡山大学は4月7日、脳内出血による脳組織の障害メカニズムに、血腫によって神経細胞から放出されるタンパク質「High Mobility Group Box-1」(HMGB1)が関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科の西堀正洋教授(薬理学)の研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」に4月10日付けで掲載されている。
脳卒中には、脳梗塞、クモ膜下出血と脳内出血の3タイプがある。このうち脳内出血は、主に高血圧症や動脈硬化症が原因となり脳動脈血管の壁の破綻によって引き起こされる。脳出血部位には血腫が形成され、周囲脳部位に物理的圧迫が加わり、さらに血腫由来のヘモグロビンやヘム鉄をはじめとする種々の化学的成分が脳障害に働く。また、血腫が大きい場合は、頭蓋内圧の亢進を引き起こし、脳低酸素症が生じる。脳外科的には血腫除去手術が可能だが、障害された脳組織を完全に回復させることは困難だ。従って、出血部位に固有の脳機能障害が後遺症状として問題になる。
現在、急性期における薬物治療法に特別なものはなく、脳浮腫の改善と全身状態の管理維持に努めるのが通例。研究グループは、これまでの研究で他の2つのタイプの脳卒中に対し、抗HMGB1抗体治療が有効であることを動物実験で証明してきた。今回の研究では、ラットの脳内出血モデルを用いて、内因性HMGB1が脳内出血時にどのような動きをするかについて調査し、抗HMGB1抗体の治療効果を検討したという。
脳内出血3時間後の抗HMGB1抗体治療開始でも一定の効果
今回の研究では、コラゲナーゼと呼ばれる酵素を線条体という脳部位に注入し、血管壁を消化することでラットの脳内出血モデルを作製。コラゲナーゼの注入部位には血腫が形成され、同時に脳血管の透過性亢進と血種周囲脳部位に強い炎症反応が認められたという。脳出血1日後には、血腫の中心部位の神経細胞から、HMGB1が消失し、HMGB1が細胞外へ放出されたことが示唆。HMGB1活性を中和する抗HMGB1抗体の投与によって、血腫周囲脳部位でのHMGB1の細胞外への放出反応、脳血管透過性亢進、アストログリアやミクログリアの活性化に代表される脳内炎症、神経細胞死のいずれもが抑制され、とくに、強い脳内炎症を惹起すると考えられるサイトカインIL-1の発現を強く抑制したことが注目される。これら効果の結果として、運動麻痺症状が改善したとしている。
今回の研究では、抗HMGB1抗体の治療開始を脳内出血後3時間で開始しても一定の効果があることも確認された。3種類の脳卒中は、成因や脳障害の機序がそれぞれ異なるが、いずれの障害プロセスにも HMGB1が共通して関わっており、抗HMGB1抗体治療は脳卒中全般に対する有望な急性期治療法となることが期待される。
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・岡山大学 プレスリリース