アルツハイマー病患者の脳はER-βが減少していることが明らかに
東邦大学は4月10日、アルツハイマー病女性患者の脳では、女性ホルモンのエストロゲンの受け手が減少している部位があること、やせすぎが脳内のエストロゲン濃度低値と関係していることを明らかにしたと発表した。この研究は同大医学部の本間尚子准教授、三上哲生教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に4月7日付けで掲載されている。
画像はリリースより
エストロゲンは女性の生理的機能維持に重要で、脳においても重要な働きをすると考えられている。アルツハイマー病は、男性よりも女性に多いが、閉経後に発症が増えることや、閉経後女性の血中エストロゲンレベルが男性以下になることなどから、血中エストロゲンレベルの低下がアルツハイマー病につながる可能性が指摘されている。しかし、これまでの研究は疫学的あるいは実験的なものがほとんどで、ヒトの脳組織、特に凍結組織を使った研究は非常に少なく、目的臓器でのエストロゲンの濃度、代謝動態、受容体の解析を包括的・系統的に行った研究はこれまでなかった。
やせすぎが脳内のエストロゲン濃度低値と関係
研究グループは今回、解剖で得られたアルツハイマー病女性患者13例の大脳前頭葉組織についてこれらを調べ、対照群12例と比較。性ステロイドホルモンであるエストロゲン2種estroneとestradiol、およびアンドロゲン1種androstenedioneの濃度は、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法で解析した。その結果、アルツハイマー病群と対照群の間には、性ステロイドホルモン濃度、代謝酵素群発現、ER-α発現には有意な差がなかったが、アルツハイマー病の白質組織においては対照群に比べてER-βの発現が有意に低下していたという。
さらに、閉経後にはアロマターゼが豊富な脂肪組織でエストロゲンが多くつくられるため、BMIと血中エストロゲン濃度は正に相関することが知られていることから、今回はBMIも併せて解析。その結果、BMIは脳内エストロゲン濃度と、特に対照群で強い正の相関関係にあることがわかった。一方、BMIと脳内アンドロゲン濃度には関係が見られなかったという。アルツハイマー病患者では、明らかな認知症症状発症前から体重が減少することが知られている。やせとアルツハイマー病の関係については、アルツハイマー病発症の前段階からの摂食障害がやせにつながるという説と、やせによる体内エストロゲン濃度低下がアルツハイマー病の原因となるという説などがあるが、過度のやせは脳のエストロゲン濃度維持という点では好ましくないことが同研究で示された。
超高齢社会の日本においては、健康長寿達成、とりわけ、脳の健康維持は国民的課題。BMI以外にも、イソフラボンがER-βに結合してエストロゲン作用を発揮するなど、エストロゲンは食生活とも密接に関係する。研究グループは、今回は比較的少数例での検討であり解明されていない点も多いが、今後、より多くの研究によりエストロゲンとアルツハイマー病の関係が明らかとなれば、食生活改善を通じた草の根レベルでの予防も可能となるかもしれないと述べている。
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・東邦大学 プレスリリース