日本産科婦人科学会のデータベースを使用、20万人超の妊娠データを解析
国立成育医療研究センターは4月7日、妊婦の身長と妊娠高血圧症候群発症のリスクとの間には関連があり、身長が低いほど発症リスクが高いことを日本産科婦人科学会のデータベースを使用した解析で明らかにしたと発表した。この研究は、同センター社会医学研究部の森崎菜穂室長、同産科の小川浩平医員らのグループによるもの。同研究成果は、産科系雑誌である「Pediatric Perinatal Epidemiology」より3月20日に発表されている。
画像はリリースより
これまで、妊娠高血圧症候群のリスク因子として、初産・多胎妊娠・肥満・既往妊娠高血圧症候群など様々な因子が報告されてきたが、妊婦の身長と妊娠高血圧の関連を調査した報告は少なく、唯一、デンマーク人を対象とした報告で関連性が認められたものの、その関連性は経産婦に限られるというものだった。
一方、一般成人では低身長が将来の高血圧のリスクになることが知られており、同様の機序で低身長が妊娠高血圧のリスクになる可能性があると研究グループは推測。一般成人においては、低身長では将来の虚血性心疾患のリスクが高いとされていることから、妊婦においては虚血性胎盤疾患として分類される常位胎盤早期剥離とSmall for gestational age(SGA)のリスクも同様に高いのではないかと考えた。
妊娠高血圧症候群は、産科領域では重要な疾患。リスク因子の同定は極めて大切であるものの、発症率は2~4%に過ぎず、リスク因子の調査には相当数の症例データが必要だった。そこで研究グループは、日本産科婦人科学会のデータベースを利用。20万人超のデータを解析して関係を調査したという。
常位胎盤早期剥離やSGAの発症リスクとも相関関係にあることが明らかに
解析では、多胎妊娠・合併症妊娠・胎児形態異常・流産、過期妊娠・データ不備症例を除外。ほかの交絡因子の影響を除外するために多変量解析を行うだけでなく、各交絡因子の有無別に、初産婦だけ、経産婦だけに限定した解析などの層別化解析も行った。
解析の結果、低身長の妊婦は妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、SGAのリスクが高いという仮説が実証されたという。この結果は様々な交絡因子の影響を除外しても同様で、初産婦でも経産婦でも、身長と妊娠高血圧症候群のリスクは有意な相関関係を認めたという。さらにこの結果は、肥満体型でもやせ体型でも身長と妊娠高血圧症候群のリスクは有意な相関関係があるなど、妊娠歴・肥満度・年齢によらず同様の傾向を示すことも判明した。
研究グループは、これらの研究結果を踏まえた臨床的なアプローチの例として、妊娠高血圧症候群のハイリスクとして認識される妊婦の場合には、低容量アスピリンの内服で発症が一部予防できることが知られていることから、低身長または低身長に加えてもうひとつリスク因子を持っている場合などにアスピリン内服を検討するなどの対策を挙げた。また、低身長妊婦における高次施設出産の推奨なども検討項目に上がる可能性があるとしている。これらの臨床的な取り組みはこれからの課題であり、妊婦自身へのリスクベネフィットを考えて今後議論していかなければならないと、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース