状況を理解しにリスクに対する態度を柔軟切り替える能力に障害
京都大学は4月5日、ギャンブル依存症の患者は許容できるリスクの大きさを柔軟に切り替えることに障害があり、リスクを取る必要のない条件でも不必要なリスクを取ること、また、脳の前頭葉の一部である背外側前頭前野と内側前頭前野の結合が弱いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学研究科の高橋英彦准教授、鶴身孝介助教、現放射線医学総合研究所博士研究員の藤本淳研究員らの研究グループによるもの。研究成果は英学術誌「Translational Psychiatry」に4月4日付けで掲載されている。
画像はリリースより
ギャンブル依存症は薬物やアルコール依存症と共通点も多く、精神疾患の国際的な診断基準であるDSM-5では、依存症に分類。欧米と比べて日本では、潜在的な予備軍も入れるとギャンブル依存症が多いと考えられており、対策が必要だ。これまでの研究や臨床では、ギャンブル依存症の患者は常に過剰にリスクを好み、性格のように比較的固定した一定の傾向が見られるという考え方が主流だった。しかし、人は状況に応じてどの程度リスクを許容するかの判断を、柔軟に切り替えて生活していることは明らかであり、患者もまたリスクへの態度を多様に切り替えていると考えられるため、過去のモデルによる依存症の理解や治療には限界があった。
脳に直接介入するニューロモデュレーションや柔軟性の向上目指す方法開発へ
そこで研究グループは、ギャンブル依存症では状況に応じてリスクの取り方を切り替える能力に障害があるという仮説を立て、ギャンブル依存症と診断された男性患者21名と健常男性29名を対象に、新たに考案したギャンブル課題を実行中の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により調査。その結果、ギャンブル依存症患者では、ノルマの厳しさを正しく認識するのに必要な背外側前頭前野の活動が低下していること、リスク態度の切り替えに重要な背外側前頭前野と内側前頭前野の結合が弱い患者ほど、ギャンブルを絶っている期間が短く、低ノルマ条件でハイリスク・ハイリターンのギャンブルを選択する傾向が強いことが明らかになったという。
今回の研究を通して、ギャンブル依存症では状況を理解し、柔軟にリスクに対する態度を切り替える能力に障害があることがわかった。依存症の神経基盤を明らかにしたことで、多様なギャンブル依存症の病態理解や、新たな治療法開発につながるものと期待される。今後研究グループは、ギャンブル依存症におけるリスク態度の切り替え障害を改善させるために、脳に直接介入するニューロモデュレーションの開発を目指すとしている。また、柔軟に戦略や視点を切り替える障害はほかの精神疾患にも認められるため、柔軟性の向上を目指す方法の開発も進める方針。
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・京都大学 研究成果