糸球体を外側から支える細胞、ポドサイトに着目
順天堂大学は3月30日、慢性腎臓病の病態メカニズム解明の鍵となる分子「SNX9」を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科・腎臓内科学講座の佐々木有助教、日高輝夫准教授、鈴木祐介教授らと、京都大学の淺沼克彦准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」電子版に3月7日付で掲載されている。
画像はリリースより
慢性腎臓病は、血液の濾過装置である腎糸球体が、糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎などで硬化に陥ることで、腎機能が低下した状態が続く。研究グループは、糸球体を外側から支える細胞、糸球体足細胞(ポドサイト)に着目。慢性腎臓病の原因となる糸球体の硬化を引き起こす、ポドサイトの障害メカニズムの研究を進めていた。
新たなバイオマーカー、早期治療薬の開発につながる可能性
研究グループは、まずポドサイト障害の変性にいたるメカニズムを明らかにするため、糸球体硬化症の疾患モデルラットとヒトの腎炎の患者の腎生検組織の免疫染色を行い、ポドサイトにおけるタンパク質の発現分布を調査。スリット膜タンパク質である「ポドシン」が障害時にポドサイトの細胞膜から細胞質へ移動していることを発見し、その局在変化がエンドサイトーシスによることを明らかにした。膜貫通タンパク質であるポドシンは単独で細胞質に移動することは困難なため、その移動を誘導する分子の存在が考えられることから、今回、研究グループはポドシンと結合するタンパク質のなかからエンドサイトーシスを担う分子を探索したという。そして、細胞内輸送タンパク質であるSNX9に注目し、腎障害における役割を調べた。
その結果、ネフローゼ症候群と糸球体硬化症の疾患モデルであるアドリアマイシン腎症マウスの腎臓の免疫染色では、アドリアマイシンを投与するとSNX9の発現量が多くなり、またポドシンと発現の分布が一致していることが判明。さらに腎炎やネフローゼ症候群の患者の腎生検組織の免疫染色では、糸球体硬化をきたす疾患ときたさない疾患とを比べると、SNX9は糸球体硬化をきたす疾患において発現量が多くなり、かつポドシンと発現分布が一致することがわかったという。このことからSNX9はポドサイト障害が強くなるにつれて発現量が増えており、ポドサイト障害のバイオマーカーとなる可能性が示された。
さらに、ポドサイトの培養細胞を用いて、SNX9をノックダウンすると、ポドシンは細胞膜にとどまり、細胞質へはわずかにしか移動していなかった。これにより、SNX9がポドサイト障害時におけるポドシンの局在変化をコントロールする鍵分子であることが明らかとなり、SNX9が慢性腎臓病の進展を防ぐ新規治療ターゲットとなる可能性が初めて示唆されたとしている。
ポドサイト障害の程度を判定するには腎生検が必要だが、腎生検で採取できる組織はごく一部のため、糸球体硬化などの病変があっても見逃してしまうことがある。ネフローゼ症候群は、糸球体硬化の有無が治療方針を左右するため、ポドサイト障害のなかでも糸球体硬化をきたす場合に特徴的に発現の上昇が認められるSNX9は、ポドサイト障害の進行を見極める新たなバイオマーカーとなる可能性があるという。
また、今回の研究で明らかになったポドシンのSNX9によるエンドサイトーシスの仕組みは、ポドサイト障害の病態メカニズムの解明につながることが期待される。研究グループは今後、ノックアウトマウスや過剰発現細胞などを用いてSNX9の役割をさらに解析することで、SNX9が腎保護的に働くのか、腎障害を促進させるのかを明らかにしたいとしている。
ポドサイト障害は、慢性腎臓病をきたすどの腎疾患においても認められる現象のため、SNX9の働きに作用する薬剤は慢性腎臓病の新たな早期治療薬となる可能性があり、増慢性腎臓病患者を減少させることが期待できるという。
▼関連リンク
・順天堂大学 ニュース