生理機能の回復を目指した、生物学的な歯の再生治療について研究
岡山大学は3月14日、器官・臓器の種となる器官原基を再生する細胞操作技術(器官原基法)を用いて、大型動物モデル(ビーグル犬)における構造的・機能的に完全な歯の再生を実証したと発表した。この研究は、同大学大学院医歯薬学総合研究科インプラント再生補綴学分野の窪木拓男教授、大島正充助教、同研究科分子医化学分野の大野充昭助教、理化学研究所多細胞システム形成研究センターの辻孝チームリーダーらの研究グループによるもの。同研究成果は科学雑誌「Scientific Reports」に3月16日付けで公開されている。
画像はリリースより
歯の喪失に対する従来の歯科治療では、固定性架工義歯や可撤性床義歯、歯科用インプラントによる人工的な機能代替治療が進められてきた。これらの代替治療は、咬合機能の回復において有効であるとされているものの、生理的な歯の移動能や、侵害刺激に対する神経機能といった歯の生理的機能を有していないことが問題とされており、天然歯が有する生理機能の回復を目指した本当の意味での生物学的な歯の再生治療が期待されてきた。
ヒトにおける完全な歯の再生治療を実現する可能性を証明
研究グループはこれまでに、共同研究によって世界に先駆けて開発した器官・臓器の種となる器官原基を再構築する細胞操作技術である器官原基法を基に、マウスにおける歯胚や歯周組織の器官としての再生技術の開発を進めてきた。この技術は、これまでの組織再生工学が目指した概念と異なり、上皮間葉相互作用を用いた器官の発生プロセスを完全に模倣し、器官の形態や機能を完全に再現する未来の臓器置換医療を支える基幹技術となるもの。今後、これらの技術がヒトに応用されるためには、大型動物モデルによる同技術の再現が必須と考えられてきたが、細胞シーズの探索や細胞操作技術の最適化を含め、齧歯類以外の大型動物では実現していなかった。
今回研究グループは、ビーグル犬から永久歯胚細胞を採取して、器官原基法により再構築したイヌ再生歯胚を顎骨内に移植することにより、構造的・機能的に完全な永久歯の再生を大型動物モデルで初めて実証。この成果は、大型動物による実用的な歯の再生治療の可能性を実証しており、歯科再生医療の技術開発はさらに進展したといえる。
今後、再生歯胚の利用による歯科再生治療を実用化するための最大の課題は、歯胚再生を可能とする細胞シーズを取得すること。同研究も若齢期の歯胚細胞を利用したものであり、歯を失った成人・高齢者にも適応しうる技術とするためには、歯胚を誘導可能な幹細胞の探索が必要だ。研究グループは、これらの課題に取り組むことによって、臨床実用化が可能な技術となるよう研究開発を進めたいとしている。
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