滲出型加齢黄斑変性の患者を対象として、iPS 細胞治療の安全性を検証
理化学研究所は3月16日、滲出型加齢黄斑変性の患者を対象として、iPS細胞由来網膜色素上皮細胞を用いた細胞治療が安全に施行できることを支持する結果を得たと発表した。この研究は、理研多細胞システム形成研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトの髙橋政代プロジェクトリーダーと、先端医療振興財団先端医療センター病院の栗本康夫部長、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の山中伸弥教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「The New England Journal of Medicine」に3月16日付けで掲載されている。
画像はリリースより
加齢黄斑変性は、先進国において高齢者が失明する原因となる主たる疾患のひとつだ。網膜色素上皮細胞(RPE)は網膜の外側に位置するシート状の単層細胞層で、網膜の視細胞を維持するために重要な働きをしている。加齢黄斑変性には滲出型と萎縮型があるが、滲出型加齢黄斑変性では加齢に伴う機能低下により、本来存在する以外の場所で新生血管が網膜色素上皮を貫いて網膜下に生え出すことで網膜下で出血が起こり、進行すると中心部の著しい視力低下をもたらす。
研究グループは、既存の治療では十分な効果が得られていない患者の皮膚の細胞よりiPS細胞を誘導し、さらにRPEを分化してシートを作製、新生血管の抜去後にその自己iPS細胞由来網膜色素上皮細胞シート(iPS-RPEシート)を網膜に移植するという方法を構想。対象患者として2名がエントリーされ、iPS-RPEシートを作製し、規定の品質試験に加えて参考データとして、全ゲノムおよび全エクソーム解析を行ったという。
iPS-RPEシートを用いた治療が安全に実施できることを確認
2014年9月に患者の1人(女性)に移植を実施したところ、1年後の評価において、腫瘍形成、拒絶など認めず、新生血管の再発もみられなかったという。また、移植手術前の視力を維持しており、安全性試験としての経過は良好。さらに、その後1年半経過した現在も、腫瘍形成や拒絶反応はみられていない。
2例目の男性に関しては、参考データとしてのゲノム解析において検出された遺伝子の変異に関して統一した解釈が得られなかったことと、患者の臨床所見が現行治療で比較的安定していたことから、移植手術は延期されているという。また、法改正に伴い同臨床研究は一旦エントリーを終了している。
1例の実施ではあるが、今回の結果より、iPS細胞由来網膜色素上皮細胞を用いた細胞治療が安全に施行できることが支持されるという。一方で、自己由来iPS細胞を用いた場合の準備期間、コスト、労力などの問題が改めて浮き彫りとなった。今後は、免疫型(HLA)を考慮した上での他家iPS細胞(他人の細胞から誘導したiPS細胞)のストックを用いた臨床研究へと発展が期待できるとしている。
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・理化学研究所 プレスリリース