ナノ粒子化による透過性向上、点眼時使用感の改善につながる
東北大学は3月9日、高い眼内移行性を有するナノ粒子点眼薬の開発に成功したと発表した。この研究は、同大学多元物質科学研究所の笠井均教授と、同大学大学院医学系研究科眼科教室、大内新興化学工業株式会社開発研究所のグループらとの共同研究によるもの。研究成果は、英科学誌 「Scientific Reports」に掲載された。
画像はリリースより
眼の最表面の組織である角膜は、外部からの異物の侵入を防ぐためのバリア機能を有する。表層は疎水的な角膜上皮、その次に親水的な角膜実質があり、角膜上皮の最表層は細胞が密に接着し、タイトジャンクションを形成している。
一般的な点眼薬は、親水性化合物の水溶液で、疎水的な角膜上皮を透過することが困難であり、点眼した薬の0.1%以下しか眼内に移行しない。疎水的な化合物がマイクロ粒子の分散液として点眼薬に使用されることもあるが、サイズが大きいため、最表層のタイトジャンクションを透過しにくいという課題があった。そこで研究グループは、サイズが小さいナノ粒子を点眼することができれば、タイトジャンクションを透過し、疎水的な角膜上皮も透過可能となると考えたという。
新たな眼科製剤の作製法として発展に期待
研究グループは、緑内障の治療薬であるブリンゾラミド(商品名:エイゾプト)に難水溶化を施した誘導体を合成し、独自のナノ粒子化技術である「再沈法」を駆使して、ブリンゾラミド誘導体のナノ粒子点眼薬を作製することに成功。作製したナノ粒子点眼薬をラットに投与して眼圧降下効果を検討したところ、高い薬理効果が確認された。これらの結果から、このナノ粒子点眼薬は、高い眼内移行性を示し、眼内で酵素により加水分解され、速やかにブリンゾラミドを放出するため、低濃度で眼圧下降作用を発現したと考えられるという。
また、白濁の点眼薬であるエイゾプトは、点眼後に患者の視野が霞んでしまい使用感が悪いという問題点があった。そこで作製したナノ粒子点眼薬とエイゾプトの光透過率測定を行い比較した結果、ナノ粒子点眼薬はエイゾプトと比較すると、100倍程度の光透過率を示すことが明らかとなった。これらの結果から、光透過性の向上により、点眼時の使用感の改善にもつながるという。
今回の研究の知見は、緑内障治療薬であるブリンゾラミドのみならず、様々な眼疾患の薬理活性化合物へと応用可能であると考えられ、今後、新たな眼科製剤の作製法として発展していくことが期待される。
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