これまでの治療選択肢は経口薬1種類のみ
小野薬品工業株式会社は2月15日、二次性副甲状腺機能亢進症治療薬「パーサビブ(R)」(一般名:エテルカルセチド塩酸塩)を発売した。これを受けて同社は3月14日、都内でプレスセミナーを開催。昭和大学医学部内科学講座 腎臓内科学部門の秋澤忠男客員教授が「透析患者の予後向上を目指して-新たな治療薬への期待―」と題して講演した。
昭和大学医学部内科学講座 腎臓内科学部門
秋澤忠男 客員教授
慢性腎不全により透析導入に至る患者数は年々増加している。日本透析医学会によると、2015年末時点での慢性透析患者は324,986人で、前年比4,538人増。透析歴は2~5年の患者が25.1%と最も多く、5~10年(24.9%)、2年未満(22.2%)、10~15年(12.8%)と続く。透析患者は比較的平均余命が短くなる傾向があるが、その背景にあるのが合併症だ。
二次性副甲状腺機能亢進症は、そうした透析の合併症のひとつ。副甲状腺ホルモン(PTH)は血中のカルシウムやリン、ビタミンDを正常に保つ働きをしているが、腎不全では腎臓におけるビタミンDの合成が行われず、低ビタミンD血症や低カルシウム血症、高リン血症を呈し、PTHの分泌を促進する。PTHの過剰分泌は骨から血中へのリンやカルシウムの流失を促進し、骨痛や関節痛などの症状を引き起こすだけでなく、心血管系に蓄積して動脈硬化など心血管系疾患の発症リスクを高め、生命予後に影響を及ぼす。
確実な投与が可能になり、アドヒアランス向上、患者負担軽減に期待
二次性副甲状腺機能亢進症の治療では、リン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、副甲状腺カルシウム受容体作動薬による内科的治療をまず行い、内科的治療では効果がみられない場合には、副甲状腺摘除術を検討する。これらの治療を行っても、リン、カルシウム、PTHの濃度すべてが、ガイドラインの定める管理目標値を達成しているのは3割程度。「3割しかいないことが、現在の二次性副甲状腺機能亢進症治療の限界を示している」と秋澤氏。なかでも、副甲状腺カルシウム受容体作動薬は1種類の経口薬しか存在しておらず、有害事象として悪心・嘔吐といった消化器症状があること、経口薬であるためアドヒアランス不良例の存在、他剤との薬物相互作用が問題となって治療を難しくしていたという。
今回新たに発売されたパーサビブは、既存薬と同じく、副甲状腺にあるカルシウム受容体に作用することでPTHの過剰な分泌を抑制し、血中のリンとカルシウムの値を低下させるカルシウム受容体作動薬。静注剤であるため、透析の返血ルートからの投与が可能で、確実に投与できPTHの管理も容易になるうえ、患者の負担となる服薬も軽減できる。治験では、パーサビブ投与開始85日目に血清iPTH濃度が管理目標値範囲内になった患者の割合は59.0%、ベースラインから30%以上血清iPTH濃度が低下した割合が76.9%、長期投与試験では、投与53週目に血清iPTH濃度が管理目標値範囲内になった患者の割合が87.5%と、長期に渡る有効性が確認されている。「これは、従来のカルシウム受容体作動薬に劣らない薬効であり、新たな治療の選択肢となる」と秋澤氏。さらに、小野薬品工業によると、同剤はCYPまたはトランスポーターを介した薬物相互作用を生じる可能性も低いという。
同セミナーでは、透析患者の立場から、株式会社ペイシェントフッド代表取締役の宿野部武志さんも登壇。透析歴30年という自身の経験や、同社の運営する「じんラボ」での腎臓病や透析に関わる人を対象としたアンケート結果をふまえ、透析患者の抱えるさまざまな困難を紹介。なかでも、透析患者は平均6.8種類の内服薬を処方されており、水分摂取が制限されている患者にとって、服薬が負担となっていることを指摘した。
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