入眠障害のある高齢者はうつ病発症リスクを有するという研究も
3月17日の世界睡眠デー(日本では3月18日)を前に、武田薬品工業株式会社は3月9日、都内でメディアセミナーを開催。日本大学医学部精神医学系の内山真主任教授と、愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センターの岡靖哲センター長が講演した。
日本大学医学部精神医学系 内山真 主任教授(左)
愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センター
岡靖哲 センター長(右)
睡眠は、若年期、壮年期、老年期といったライフステージにより、適切な睡眠時間や睡眠不足によるリスクが異なるため、各年代での対応が必要である、と内山氏。特に高齢になると深い眠りの時間が減るため、不眠の訴えが増えるという。65歳以上で入眠障害があると3年後にうつ病を発症するリスクが高くなる、という報告もあり、不眠治療の重要性が増している。
不眠は、何らかの素因を有する人が、ストレッサーなどの促進因子に接することで閾値を超えて発症すると考えられている。就寝や入眠、睡眠維持に関する訴えがあり、夜間の睡眠障害に伴って、倦怠感や不定愁訴、集中力・注意・記憶の障害、社会的機能の低下などの日中の障害9項目のうち、最低ひとつが認められること、さらに、夜間および日中の症状が週3回以上認められ、3か月以上持続する場合、不眠症と診断される。睡眠障害には不眠症のほか、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシー、レストレスレッグス症候群なども含まれ、やはり不眠症状を呈するため鑑別が必要だ。
不眠の原因となる生活習慣を取り除く睡眠衛生指導
治療においては、まず不眠症状の特徴や日中の機能障害といった症状を把握するが、その際、不安や抑うつによる過覚醒、夜型の生活や夜勤などリズム異常、午睡過多による恒常性異常についても聴取し、治療の要不要を判断する。治療を要すると判断された場合、まずは生活リズムを整えるよう指導する睡眠衛生指導や、カフェインやニコチン、アルコールの接種といった生活習慣の見直しが行われる。
睡眠衛生指導を行うにあたり、まずは患者の生活において、不眠の原因となっている要素を把握する必要がある。就床までの状態については、眠りに適した状況であるかを確認する。就床前の時間に激しい運動をする習慣がないかといった運動や活動の状況や、タブレット端末やスマートフォンの使用状況など光環境を聴取する。すでに睡眠薬を処方されている場合には、服薬時刻も確認する。就床時の気分についても、床に入ること自体が眠れない刺激になっている場合もあるため、詳しく聞き取る。睡眠は覚醒とのバランスで成り立っている。入眠時刻の2~3時間前は眠りたくても眠れない時間帯であるため、この時間帯に眠ろうとしていないか、就床時刻の確認も重要となる。
就床後の状況については、どういう眠りであるかを確認する。入眠障害がみられる場合は、寝付けない時の対処法を確認する。スマートフォンを触っているなど、さらに入眠を難しくする行動をとっている可能性もある。中途覚醒がある場合には、その頻度や、覚醒時の対処法、再入眠の状況についても確認する。患者によってはこのタイミングで睡眠薬を服用していることがあるという。
起床時の状態に関しては、目が覚める時刻や目覚めの方法、寝床を出る時刻のほか、ぐっすり眠れたかの確認もする。睡眠と覚醒のリズムは一定が望ましく、平日と週末で起床時刻が違う場合は睡眠のリズムが乱れやすい。日中の過ごし方では、眠気の有無や活動性を確認するほか、午睡の取り方が適切かどうかも重要となる。
漫然とした睡眠薬処方はリスクを伴う
不眠症状は、プライマリケア医で相談されるケースも少なくなく、睡眠衛生指導を十分に行わずに睡眠薬が処方される例もあるという。特に高齢者では、薬物代謝が低下していることから、睡眠薬を服用すると効果が持続しやすく、転倒のリスクとなる。さらに、長期に睡眠薬を連用し、患者が自己判断で服薬を中断すると不眠が悪化することもある。睡眠衛生指導を行って睡眠衛生を確保してこそ、睡眠薬も効果的になる、と岡氏。漫然と睡眠薬を処方するのではなく、どこかで睡眠薬をやめることを念頭に置いた、「出口を見据えた不眠治療」へと、不眠に関する医療者側の意識改革も必要だと述べた。
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