瀬野川病院(広島市)の桑原秀徳氏は、臨床業務に従事している薬剤師にとって、「観察しなければならない現象は患者のアウトカムにほかならない」と述べ、精神疾患患者の真のアウトカム評価には、定量的なデータの活用がカギになるとした。
そのためには、患者の状態や好み、適切な情報や科学的根拠などを踏まえた臨床判断の必要性を強調。臨床判断を伴う薬剤師業務について、「添付文書やメーカーから提供される情報をそのまま横流しするような仕事ではないはず。様々な背景要因に関心を持ち、それを多職種で共有しながら目の前の患者さんの課題に対して、最良な行動を考えていくことが重要」とした。
桑原氏は「これからの病院薬剤師業務は、一人の患者さんに対するたった一つの薬物療法を医師と協力して行っていく処方支援に特に力を入れていかなければならない」と訴えた。
アイ調剤薬局の成井繁氏(横浜市)は、横浜市薬剤師会の協力のもと、薬局薬剤師の精神科領域処方箋に関する実態調査の結果を報告した。精神科の処方箋の応需経験を尋ねると、95.7%が「ある」と回答した一方、91%が精神科領域の処方箋で困ったことがあると回答したことを紹介。その内訳を詳しく見ると、「どんな症状が目的で処方されているか分からない」が66.8%と最も多く、次いで「どのような診断なのか分からない」が60.8%、「どのように服薬指導していいか分からない」が43.8%となった。実際に患者、処方医とトラブルになった経験も約3割に見られ、今後、精神科領域処方箋を応需したいかと思うかを聞くと、「積極的に応需したい」との回答は13.6%にとどまり、「できれば応需したくない」「応需したくない」「断りたい」を合わせると11%に上った。
これらを踏まえ、成井氏は「薬局薬剤師は精神科領域の処方箋について苦手意識があるのではないか」と考察。「精神疾患について保険薬局の関心を高めるため、患者さんとのコミュニケーションを取るためのスキルアップが必要。精神科医療そのものを知ってもらう必要もある」と指摘した。
名城大学薬学部病態解析学Iの野田幸裕氏は、癌患者のうつ病併発率が高いことを例に挙げ、精神的サポートの必要性を強調。薬の副作用による精神症状を改善するため、薬剤師は薬学的知識を踏まえて適切な抗うつ薬を選択する必要があるとし、「エビデンス、ガイドラインに加え、適切な薬の選択は薬剤師の専門性になる」と述べた。