機能未知の新規ミトコンドリアタンパク質に注目し、機能解析を実施
京都府立医科大学は3月9日、心不全の病態に関与する新規ミトコンドリアタンパク質が D-アミノ酸代謝に関与する酵素であることを解明したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科循環器内科学の有吉真助教、的場聖明教授らの研究グループによるもの。研究論文は科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン速報版に3月7日付けで掲載されている。
画像はリリースより
心不全はあらゆる心疾患から起こるが、薬物治療、カテーテル治療、外科手術など様々な治療の進歩にも関わらず、予後は依然として不良であり、さらなる治療法の開発が待たれている。心不全の究極的な原因は、心臓の一拍一拍における拍動や収縮に必要なエネルギー不足だが、そのエネルギーは心臓のミトコンドリアによって産生されている。ミトコンドリアはエネルギー産生を担うとともに酸化ストレスや細胞死の制御も行うことが知られており、その質的・量的異常に注目が集まっている。そこで今回研究グループは、機能が明らかでない新規ミトコンドリアタンパク質に注目し、その機能解析を行ったという。
D-グルタミン酸の代謝制御のさらなる研究が、心不全治療法の開発に寄与
研究では、心不全モデルマウスを用いてミトコンドリアタンパク質の網羅的解析を行い、心不全において発現が減少する機能未知の新規タンパク質9030617O03Rikに注目。9030617O03Rikの細胞内の局在を検討したところ、心筋細胞内のミトコンドリアに局在し、ミトコンドリア内では内膜に接する形でマトリックスに存在することが同定されたという。
また、アミノ酸配列の比較検討を行ったところ、細菌であるThermovirga lieniiiのアミノ酸ラセマーゼと相同性を有することが判明。そこでノックアウトマウスを作製し、心臓の全遊離型アミノ酸をL型、D型に分けて分析したところ、コントロール群と比較しノックアウトマウス群においてD-グルタミン酸が有意に蓄積していることが分かったという。哺乳類の組織内において遊離型D-グルタミン酸の存在が確認されたのは、世界初の知見だ。
さらに、9030617O03RikがD-グルタミン酸の代謝に関与している可能性が示唆されたため、酵素学的検討を行ったところ、D-グルタミン酸とL-グルタミン酸を仲介するラセマーゼではなく、D-グルタミン酸から5-オキソ-D-プロリンというアミノ酸を生成するD-グルタミン酸シクラーゼであることが判明した。同研究により哺乳類におけるD-グルタミン酸シクラーゼが初めて同定されたことになる。
今回の研究成果をもとに、D-グルタミン酸の代謝制御のさらなる研究によって、心不全患者への早期介入や現在の治療法では限界に達しつつある重症心不全において、ミトコンドリアタンパク標的薬といった新たな治療法の開発に繋がることが期待されると、研究グループは述べている。
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・京都府立医科大学 プレスリリース