より安全に安心な白内障の手術環境を提供するため有益な情報に
岡山大学は3月8日、白内障手術前に行っている結膜嚢培養(眼脂培養)において、細菌が検出される患者は細菌が検出されない患者と比べ、高齢で、糖尿病の頻度が高く、過去に入院を伴う全身手術を受けたことが多いことが分かったと発表した。この研究は、同大学大学院医歯薬学総合研究科(医)眼科学分野の松尾俊彦准教授と福山市民病院眼科の河田哲宏医師が共同で行ったもの。同研究成果は、米国のオンライン科学雑誌「BMC Ophthalmology」に2月20日付けで掲載されている。
白内障は、加齢などによって頻度が高まり、高齢社会である日本でも患者数の多い疾患のひとつ。白内障の手術件数も増えつつある。結膜嚢に細菌がいる場合、術後感染の危険性が増すため、眼科では手術入院する際、結膜嚢の細菌培養を行っている。
また、最近日本だけでなく世界中で抗菌薬が効かない細菌が増えており、大きな社会問題となっている。病院には免疫機能が弱った患者が入院しているため、外部から耐性菌を持ち込まないよう、結膜嚢の細菌培養で耐性菌を持っていないかどうかを調査、事前に外来にて治療をしている。
適正な抗菌薬使用にもつながり、耐性菌の蔓延防止にも寄与
今回の研究では、福山市民病院で過去2年間に1泊入院して白内障手術を受けた576人の患者を対象に、術前に行った結膜嚢の細菌培養の結果を調査。その結果、576人中168人の結膜嚢の拭い液で細菌が検出され、残りの408人では細菌は検出されなかった。最も多く検出された細菌は、ブドウ球菌属(Staphylococcus species)であったという。このブドウ球菌属は院内感染対策において、耐性菌の出現などが問題となる細菌だ。
細菌が検出された患者と検出されなかった患者をさらに調査すると、細菌が検出された患者は高齢で、糖尿病を持っていることが多く、眼科以外の他の診療科で入院を伴う手術を受けたことが多いことが判明。また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が、576人中1人で検出された。この報告は、今までの報告と比べてMRSA の検出が極めて低頻度であり、福山市全体で行っている抗菌薬の適正使用が効果を発揮しているものと考えられるという。
同研究成果は、術後感染が起こらない安全な白内障手術の計画を可能にするだけでなく、病院全体の院内感染対策にも役立つ知見であり、より安全で安心な医療につながることが期待される。
▼関連リンク
・岡山大学 プレスリリース