■全国130の医療機関から収集
国内で電子カルテのデータベース構築を進めている一般社団法人「健康・医療・教育情報評価推進機構」(HCEI)は、2017年度から本格的にデータセットの提供を開始する。現在、全国の約130医療機関と契約を結んでデータを収集しており、このうちクリーニングを終えた25医療機関約450万人分のデータが二次利用可能な状態になっている。今後、大学や製薬会社などの研究機関に所属する研究者を対象に公募を行い、倫理審査委員会の審議を経て提供先を決定する予定だ。
電子カルテデータなど医療の実態を反映したリアルワールドデータ(RWD)は、製薬会社のマーケティングや製造販売後調査、臨床開発、アカデミアの医学研究など様々な目的で活用できるとして、関係者から注目を集めている。
HCEIは15年に川上浩司氏(京都大学大学院医学研究科薬剤疫学教授)らが立ち上げたもの。同年に発足したリアルワールドデータ(本社京都市)に必要な実務を委託し、契約を結んだ全国の医療機関から、匿名加工した電子カルテデータとレセプトデータを収集している。
既に約130医療機関からデータ提供の合意を取りつけた。1000床以上の病院が複数含まれるほか、各地の多様な病院や大規模診療所からデータを収集。データ提供先の規模やエリアは、ほどよくばらついているため、データの偏りが小さいことが特徴だ。
収集した電子カルテデータは、クリーニングを経て統合している。電子カルテの構造は標準化されておらずメーカーによって異なる上、同じメーカーでも個々の病院の要望に応じてカスタマイズされ、違いがある。
そのため検査値ひとつとっても表記や単位、識別コードなどは病院によって様々だ。その違いをチェックして統一した様式に変換する作業が必要になる。現時点で25病院、約450万人分のクリーニングを終え、二次利用可能な状態になっている。
既に製薬会社や大学への試行的な提供を実施しており、17年度からその利用希望受付を拡大。本格的なデータセットの提供を開始する。18年春ごろには少なくとも130医療機関1400万人以上のデータベースになる見通しだ。
データ提供先の医療機関には、経営に役立つ指標や医療の質向上に役立つ指標を、それぞれの要望に応じて無料で解析したレポートを提供している。電子カルテデータの収集には金銭的な授受は生じないが、そのレポートが、医療機関がデータを提供する動機のひとつになる。
製薬会社は近年、製造販売後調査における電子カルテデータベースの活用に注目している。
国は、MRが医師から調査票を回収する既存の方法に加え、電子カルテなどRWDの解析結果を製販後調査に活用することを認める方針。現在、それに向けたGPSP省令の改定作業が進行中だ。
国内ではほかにも、国が中心になって10拠点23病院、300万人台の電子カルテデータを集積する「MID-NET」の構築が18年度の本格稼働を目指して進んでいる。