細菌感染時にマクロファージが優先的に作られる仕組みを解明
東北大学は3月3日、細菌感染時に、細菌を貪食して排除する白血球の一種であるマクロファージが、造血幹細胞から優先的に作られる分子メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科生物化学分野の五十嵐和彦教授、同加齢医学研究所遺伝子導入研究分野伊藤亜里助教らのグループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」電子版に掲載された。
画像はリリースより
白血球は、感染初期に活性化され病原菌を貪食して排除するマクロファージと、感染の後期に抗体を産生して病原菌の動きを止めるリンパ球に大別される。このふたつの種類の細胞はどちらも造血幹細胞から分化し、この細胞分化は遺伝子の発現を調節するタンパク質(転写因子)によって制御されている。これまでに、細菌感染に応答してマクロファージへの分化が優先的になり、最初の防御機構が働き出すことが知られていたが、この時、造血幹細胞で何がおきているのか、未解明な点が多かったという。
造血幹細胞から自然免疫系の細胞を優先して作る機構
今回の研究により、造血幹細胞では互いに抑制しあうふたつの転写因子Bach2とC/EBPβが働いており、細菌のリポ多糖に応答して分化がマクロファージ側に傾くことが明らかになった。リポ多糖が造血幹細胞の表面にある受容体に結合すると、マクロファージで働く遺伝子群の発現を抑える転写因子Bach2の量が減り、マクロファージ遺伝子の発現を促進する転写因子C/EBPβの量が増加。マクロファージへの分化は、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)が、造血幹細胞表面に存在する受容体に結合して促進されるが、このM-CSF受容体をつくる遺伝子の発現に対しても、Bach2は抑制、C/EBPβは促進と、逆方向へ作用することも明らかになったという。
さらに、Bach2とC/EBPβは、互いの発現を抑制しあうシーソー関係にあることが明らかとなった。Bach2遺伝子を破壊したマウスでは、リポ多糖刺激によるマクロファージへの分化が野生型マウスよりも増強し、逆にリンパ球への分化は減少する傾向が認められた。これらの結果より、Bach2とC/EBPβの相互抑制的な関係によって、マクロファージとリンパ球の分化のバランスが調節され、細菌に応答してBach2が減少し、C/EBPβが上昇することで、幹細胞や多能性前駆細胞の分化の方向がマクロファージに向かうと考えられるという。
この発見は、細菌感染の際の白血球の分化の仕組みの一端を明らかにしたもの。白血球の分化バランスの制御の仕組みを明らかにすることは、感染症の重篤化や慢性炎症など、様々な免疫関連疾患の詳細な理解につながることが期待される。
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