温度に反応してサイズアップし集積するナノ微粒子
九州大学は3月8日、がん組織の温度に応答して薬剤分子を集める仕組みを開発したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の唐澤悟准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Nano Letters」オンライン版に3月7日付けで掲載されている。
画像はリリースより
副作用を起こさずにがん治療を行うことは、多くのがん患者や家族の願いだが、そのためにはがん細胞やがん組織へいかに無駄なく薬剤を分布するかが重要となることから、新たなドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が活発に行われている。近年、がん細胞の活発な活動で生じる隙間に着目した研究が、DDSの鍵として注目を集めている。これはがん組織内に生じる隙間が、数十〜数百nmであることを利用して、その隙間へサイズフィットするナノ微粒子を用いて薬剤を集積させる方法で、多くのナノ微粒子はがん細胞の活発な活動で生じる隙間に対してサイズフィットしているものの、自らがん組織に特異的に集積することができず、薬剤の大量投与が必要になるなどの問題があった。
患者の負担が少ないがんの診断・治療法開発へ
がん細胞や組織は細胞間に隙間が生じるだけでなく、温度が正常細胞や組織よりも高くなる性質があり、がんの種類や大きさによって差はあるものの、例えば乳がんの一種では2度程度高温を示すとの報告がある。そこで同研究では、がん組織の持つ高温性を利用することを考え、温度応答性ナノ微粒子を開発。この微粒子は、水へ溶かすと透き通った溶液になるが、高温にすると微粒子同士が集まり始め、溶液に濁りが生じる。さらに、透明溶液中では10nm程度の小さい球状の微粒子だが、濁り始めると100~1,000nm程度の大きな微粒子にサイズアップしていることがわかったという。
また、マウス体内での温度応答性を調べるために、がん組織を植えた担がんマウスへ蛍光分子を取り付けた微粒子の投与を行い、蛍光イメージングで観察した結果、明らかにがん組織付近に強い蛍光が観測され、正常組織には蛍光が観測されなかった。このことはがん組織へ集積した微粒子が温度に応答してサイズアップし、がん組織へ加速的に集積され留まっていることを示唆しているという。
今回の研究成果により、効率的、加速的に微粒子をがん組織へ集積させる方法が可能であることが示された。今後同研究グループは、開発した温度応答性ナノ微粒子内にMRI造影剤やがん治療薬を包接させることにより、短時間、低投与量でのがん診察や、副作用のないがん治療への展開を目指すとしている。
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・九州大学 研究成果