メンタルヘルスの不調の時系列的な変化を検討
順天堂大学は3月7日、福島原子力発電所員のメンタルヘルスについて追跡調査を実施し、災害関連体験と心的外傷後ストレス反応(PTSR)との間に因果関係があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科・公衆衛生学講座の野田愛准教授、谷川武教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国の医学雑誌「Psychological Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
2011年4~5月に実施されたFukushima Nuclear Energy Workers Support(NEWS)プロジェクト調査から、同年3月11日の東日本大震災に伴う福島原子力発電所事故における災害関連体験を経験している所員は、経験していない所員に比べて、PTSRや精神的苦悩(GPD)といったメンタルヘルスの不調があることが明らかになっている。しかし、このようなメンタルヘルスの不調の時系列的な変化については、これまで十分な検討がされていなかった。そこで研究グループは、2011~2014年までの3年間の縦断研究を実施。原子力発電所員のメンタルヘルスを長期的に調査することで、福島原子力発電所事故後の災害体験との因果関係について検討したという。
「差別・中傷などの社会批判によるPTSR」は、3年経過しても強く残る
研究では、災害の2~3か月後となる2011年に福島原発所員に対して実施した自己記入式アンケート調査をもとに、自分の命に危険が迫る体験や発電所の爆発などの「惨事ストレス」、同僚を失った「悲嘆体験」、財産喪失、自宅からの避難といった「被災者体験」、「差別・中傷」などの社会批判を受けたなど、 4つの災害関連体験を経験した所員と経験しなかった所員に分け、出来事インパクト尺度を用いて、PTSRの有無を評価。アンケート調査に回答のあった発電所員1,417名(第一原発:1,053名、第二原発:707名)を対象として、2011年から2014年までの災害関連体験とPTSRの長期的変化との関連について分析した。
その結果、「惨事ストレス」、「被災者体験」、「差別・中傷」といった災害関連体験を経験した所員のPTSRのリスクは、いずれも時間とともに徐々に低下する傾向があったが、経験していない所員に比べると、3年を経過してもなお、PTSRのリスクが持続することが認められた。特に、「差別・中傷」といった社会批判を受けた所員は、受けていない所員に比べて、2011年時点では約6倍、 2014年時点でも約3倍と、PTSRリスクが有意に高いことが明らかになったという。また、同僚を失った「悲嘆体験」経験がある所員は、経験のない所員に比べて、2011年時点で約2倍、2014年時点においても回復することなく同等のリスクがあることが認められ、「悲嘆体験」といった悲しみの感情は長期にわたり持続することが明らかとなった。以上のことから、災害関連体験は長期間持続して、PTSRに強い影響を及ぼすことが考えられるという。
災害後4~12か月間、メンタルヘルスの不調を訴える所員に対しては、精神科医や臨床心理士が継続的に治療や心理カウンセリングを提供し、精神的支援を行ってきた。しかし、今回の研究により、PTSRが長期にわたり持続していることが明らかとなり、今までの支援では十分ではないことが示された。所員のメンタルヘルスを良好に保つためには、組織的な介入策など広範囲にわたる長期的な支援が必要となる。このことは、原発事故のみならず、多くの災害等における支援者や被災者のメンタルヘルス対策を考える上で重要であると研究グループは述べている。
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