血清プロテオーム解析により探索、早期診断へつながる可能性
横浜市立大学は3月7日、質量分析装置を用いた血清プロテオーム解析により、4種類の川崎病の血液診断マーカー候補タンパク質を発見したと発表した。この研究は、同大学先端医科学研究センターの木村弥生准教授、平野久学長補佐・特任教授、附属病院小児科の柳町昌克助教(現東京医科歯科大学助教)、附属市民総合医療センターの森雅亮准教授(現東京医科歯科大学教授)らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に3月6日付けで掲載されている。
画像はリリースより
川崎病は、主に4歳以下の乳幼児に発症する急性熱性発疹性疾患。国内では毎年1万人以上が罹患し、近年増加傾向にある。無治療の場合や治療が奏功しなかった場合には25~30%の患者で心臓に合併症が生じ、これが小児に見られる後天性心疾患の最大の原因にもなっている。
現在の診断基準では、6つの主要症状(5日以上続く発熱、両側眼球結膜の充血、口唇発赤、苺舌、不定形発疹、急性期の手指の硬性・手掌および足底紅斑、解熱後の膜様落屑、頸部の非化膿性リンパ節腫脹)のうち5つ以上を認めた場合に川崎病と診断する。発症後早期の診断と治療開始による有熱期間の短縮が非常に重要となるが、主要症状には個人差があり、症状が5つ未満の症例も多数存在することから、症状以外から診断が可能な検査法の開発が求められていた。
病理発生の解明や新たな治療法開発へつながる期待も
研究グループは、6つの主要症状のうち5つ以上を示した典型的な川崎病患者の、急性期と回復期の血清で発現量が変動するタンパク質を、質量分析装置を用いたプロテオーム解析により探索。その結果、急性期では回復期に比べて20種類のタンパク質の発現が増加し、6種類のタンパク質の発現が減少していることを見出した。さらに、急性期で発現が有意に増加している3種類のタンパク質(LBP、LRG1、AGT)と、発現が抑制されている1種類のタンパク質(RBP4)が、川崎病の病勢の変化に伴い変動する川崎病関連タンパク質であることが判明したという。
次に、これら4種のタンパク質が川崎病の診断に有効か検証するため、ウィルス感染症、細菌感染症、自己免疫疾患など川崎病以外の小児の発熱性疾患患者や健常児の血清中に含まれるそれらのタンパク質を、酵素免疫測定法(ELISA)で測定、比較。その結果、LBPとAGTについては細菌感染症との比較では有意な差はなかったものの、それ以外の疾患との比較では全てにおいてLBP、LRG1とAGTの血清中濃度が急性期の川崎病患者血清で有意に高値であり、RBP4は他の疾患よりも有意に低値だったという。また、川崎病と症状による区別がつきにくい、アデノウィルスや溶連菌などによる感染症患者についても、特にLRG1の血中濃度を調べることで鑑別診断が可能であることが明らかになったという。
今回の研究で見出した4種類のタンパク質のいずれかまたは複数を組み合わせた検査で、より早期に的確な川崎病の診断が可能となり、より適切な治療が選択されることが期待される。これにより、心合併症の発生を防止できるだけでなく、治療前後の経過観察も容易になるという。これら4種のタンパク質はそれぞれが川崎病の異なる相を反映していると考えられることから、これらのタンパク質を指標として、より詳細な川崎病の病理発生が明らかにされ、新たな治療法の開発が期待されると、研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース