鉄欠乏下の赤芽球中では、遺伝子発現が広範に変動
東北大学は2月21日、鉄欠乏性貧血の病態の一端を解明したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科生物化学分野の小林匡洋研究員、加藤浩貴研究員、張替秀郎教授、五十嵐和彦教授らのグループが、九州大学生体防御医学研究所の佐々木裕之教授らとともに行ったもの。研究成果はヨーロッパ血液学会機関誌「Haematologica」に掲載された。
画像はリリースより
生体内の鉄の約70%は赤血球のヘモグロビン産生に利用されるが、食事などから摂取される鉄分はごく僅かであるため、多くの鉄は体の中で再利用される。出血などにより体内の鉄分が大量に失われると鉄欠乏性貧血が引き起こされ、月経のある女性を中心に、鉄欠乏性貧血患者は多い。これまで、鉄分不足が鉄欠乏性貧血の原因と考えられてきたが、必ずしも全ての女性が鉄欠乏性貧血を発症するわけではないことから、単なる鉄不足のみでは鉄欠乏性貧血の原因を十分に説明できていなかった。
赤血球の鉄欠乏環境適応にはヘムに応答する転写因子Bach1が重要
研究グループは、鉄欠乏性貧血モデルマウスから採取した赤芽球を使って、網羅的DNAメチル化解析および遺伝子発現解析を実施。その結果、鉄欠乏状態ではDNAメチル化修飾および遺伝子発現が広範囲に渡って変動していることが明らかになったという。また、ヘムに応答する転写因子Bach1が、鉄欠乏により合成が低下するヘムの量に対応してグロビンの合成を低下させることで、ヘムとグロビンのバランスを調整していることを突き止めた。
これは、鉄欠乏が赤芽球の遺伝子発現変動を引き起こすという新しい発見であり、鉄欠乏状態に応答してヘムとグロビンのバランスを遺伝子発現レベルで調整する転写因子の存在を示す新たな知見。
今回の発見は、鉄欠乏性貧血の病態の一端を明らかにしたものであり、この疾患および鉄の生体内での機能のより詳細な理解へとつながることが期待される。また、近年注目されている鉄剤の投与によっても改善しない鉄欠乏性貧血(鉄剤不応性鉄欠乏性貧血)の新たな診断法や、治療法の開発にもつながることも期待される。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース