変異型イソクエン酸脱水素酵素IDH1に対する選択的阻害剤を開発
国立がん研究センターは3月1日、第一三共株式会社と共同で、悪性腫瘍に対する新規分子標的薬として変異型イソクエン酸脱水素酵素IDH1に対する選択的阻害剤(DS-1001)を開発し、悪性脳腫瘍の神経膠腫(グリオーマ)の患者を対象に第1相臨床試験を開始したと発表した。
神経膠腫は脳に発生する悪性腫瘍で、原発性脳腫瘍の約30%を占める。正常脳との境界が不鮮明であり、手術による全摘出は困難だ。通常は再発予防目的で手術後の放射線治療や化学療法などが必要となるが、悪性神経膠腫の多くは数か月~数年で再発し、さらに治療が困難になっているのが現状。そのため、新規薬剤開発が強く求められている。
神経膠腫などの悪性脳腫瘍や急性骨髄性白血病、胆管がん、軟骨肉腫などの悪性腫瘍では、高頻度でIDH1/2遺伝子に変異が見られる。同センター研究所造血器腫瘍研究分野の北林一生研究分野長の研究グループは、この変異型IDH1/2を阻害することにより、IDH1/2変異をもつ急性骨髄性白血病のがん幹細胞が消失することを発見。今回開発した変異型IDH1選択的阻害剤は、脳内移行性を有し、患者由来組織移植(PDX)モデル等を用いた非臨床試験では、IDH1変異をもつ悪性脳腫瘍、急性骨髄性白血病、軟骨肉腫の増殖を抑制することが示されているという。
IDH1変異があり、再発リスクが高い神経膠腫への効果に期待
これまで開発されてきた悪性腫瘍に対する分子標的薬は主に、がん細胞で活性化や高発現している分子を標的としたもの。これらの分子は正常な細胞でも一定の発現があるため、正常な細胞にも作用し副作用が生じることがあった。
今回開発された変異型IDH1選択的阻害剤は、がん細胞のみで発現する変異型IDH1を特異的に阻害。正常細胞で発現する野生型のIDH1に対する作用は極めて弱いことが示されているという。IDH1変異は、グレード2・3の神経膠腫(星細胞腫・乏突起膠腫)と診断された患者の7割以上に認められ、これらのIDH1変異のある神経膠腫は、30~50歳に多く、再発を繰り返し治療経過も長いことから、同剤の効果が期待される。
今回の第1相臨床試験は、標準的治療法のない再発のIDH1変異のある神経膠腫の患者を対象とするもので、同センター中央病院にて実施するほか、他の施設でも実施していく予定としている。
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・国立がん研究センター プレスリリース