神経軸索が伸びてきやすい導管構造を作ることで神経再生の促進が可能に
京都大学は2月27日、末梢神経損傷に対する新しい治療法として、バイオ3Dプリンターを用いて神経再生技術の開発に世界で初めて成功したことを発表した。この研究は、同大医学部附属病院整形外科の松田秀一教授、リハビリテーション科の池口良輔准教授、同大医学研究科人間健康科学系専攻の青山朋樹准教授、佐賀大学医学部臓器再生医工学講座の中山功一教授らの研究グループと株式会社サイフューズとが共同で行ったもの。研究成果は「PLOS ONE」オンライン版に2月13日付けで掲載されている。
画像はリリースより
現在の末梢神経損傷に対する治療は、患者自身の下腿などの神経の一部を移植する治療が主流。これは健常な神経の一部を摘出して行われるため、採取部位周囲の感覚神経麻痺や異常知覚の原因になり、必ずしもベストの治療方法ではない。そこでさまざまな人工材料を用いた人工神経の開発が行われているが、自家神経移植と同等の治療成績は得られていないことから、一般普及していないのが現状だ。
これまで人工神経が、自家神経移植と比較して良好な結果が得られなかったことの理由に、人工神経には細胞成分が乏しく、サイトカインなどの再生軸索誘導に必要な環境因子が不足していたことが挙げられる。そこで人工神経に増殖因子や血管移植、細胞移植などを加えるハイブリッド治療が考案されてきたが、いずれも目覚ましい結果を得ることはできていなかった。
3年後に医師主導治験を開始予定
サイフューズ社は、中山教授の研究成果である、生きた細胞を立体的に積層する独自技術の実用化を目指して2010年に創業された再生医療ベンチャー。分離した細胞が凝集する現象を利用して細胞凝集塊を剣山に積層する技術および、還流装置を用いた熟成技術を開発することで、細胞のみからなる三次元構造体を作製するバイオ3Dプリンター“Regenova”を開発した。これまでに軟骨組織、血管組織等の作製実績を有しており、これらの技術をもとに今回、再生神経軸索を誘導するバイオ三次元神経再生導管構造の作製に成功したという。
今回は、Regenovaを用いて細胞のみで作製したバイオ三次元神経再生導管をラットの坐骨神経損傷モデルに移植。その結果、人工神経より良好で自家神経移植に遜色ない結果を得ることができたことから、線維芽細胞から作製したバイオ神経三次元再生導管より放出されるサイトカインや血管新生によって良好な再生軸索の誘導が得られたと考えられるという。
研究グループは今後、実用化に向けて非臨床POC取得、非臨床安全性試験をクリアした後に、医師主導治験を3年後に開始する予定としている。
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・京都大学 研究成果