■外資製薬大手とモデル作成へ
山口大学病院薬剤部と外資系大手製薬会社は、既存の医薬品情報を医療従事者らが有効に活用できる仕組みの構築に向けて討議を重ねている。高度な検索機能を設けたウェブサイトや人工知能による音声応答など最新のIT技術を活用した体制を製薬会社が整備し、各種医薬品情報の中から医療従事者らが欲しい情報をすぐに取得できるようにしたい考え。コンセプトを固めて年内に実証実験を行い、その効果を検証した上で、本格的な稼働につなげる計画だ。
製薬会社は、添付文書やインタビューフォームに加えて、「使用上の注意」の解説、概要付きRMP、くすりのしおり、患者向け医薬品ガイド、患者向け資材などの各種医薬品情報を作成。これらの情報を印刷して医療従事者らに配布したり、電子化したPDFファイルを自社のウェブサイトで提供したりしている。紙と電子、いずれにしても冊子体にまとめて提供するだけにとどまっており、その後の具体的な活用方法は医療従事者に委ねているのが現状だ。
一方、多くの医療従事者は、これらの医薬品情報の構成や内容を十分に把握していない。そのため医療従事者が医薬品の情報を知りたい時に、それぞれの資料を開いて該当項目を探し出すのに手間や時間を要し、欲しい情報をすぐに探し出せない場合があった。欲しい情報がどこかに存在することすら知らない場合もあり、患者向け資材も十分に活用されていなかった。
各種医薬品情報の中から、必要な情報を効率的に取得できる仕組みが求められていた。全国の病院が個々に内部システムを構築するのではなく、情報の発信者である製薬会社がその仕組みを構築することが理に適っているという。
こうした背景から山口大学病院薬剤部と、その発案に賛同した外資系大手製薬会社は約1年前から、必要な仕組みの構築に向けて討議を重ねてきた。山口大学教授・薬剤部長の古川裕之氏は「製薬会社から提供される様々な医薬品情報のどこに、どのような内容が記載されているのか、医療従事者も製薬会社自身も十分に把握しておらず、せっかくの情報が活用されていない。それを十分に利活用できるようにしたい」と語る。共同で一つのモデルを作り、製薬業界全体に波及させたい考えだ。
両者は現在、最新のIT技術を持つ複数の大手企業からの提案を受けて、二つの方向性で検討を進めている。一つは高速で高機能な検索エンジンを使う方法。製薬会社のウェブサイト上でキーワードを入力し検索すると、登録された全ての医薬品情報の中からキーワードに関連する部分を抜き出して表示させる仕組みだ。資料を一つずつ開く必要はなく、1回の検索で目的の情報にすぐに辿り着くことができる。この方法の実現可能性は高いという。
もう一つは、ワトソンなどの人工知能を利用する方法。医療従事者が音声などで知りたいことを質問すると、その質問内容を人工知能が理解し、医薬品情報の中から必要な情報を探し出してきて回答するものだ。コールセンターの一次対応を人工知能が24時間担当したり、オペレーターの業務を人工知能が支援したりするなど様々な活用方法が見込まれる。この方法は、中長期的に実現可能性を探っていくことになりそうだ。
これらの体制整備は製薬会社にもメリットがある。MRなど社内のスタッフが既存の医薬品情報を十分に活用できるようになる。また、内容が重複する資材や使用頻度の低い資材が明確になるため、その作成を中止することで経費削減にもつながる。