従来の方法では、Gタンパク質に起きる変異の構造の違いを見出せなかった
日本医療研究開発機構(AMED)は2月22日、動的構造変化を精度よく検出することができるNMR測定法「多量子緩和解析法」を開発し、がん発症の原因となる変異グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)の動的構造が、正常なGタンパク質と異なっていることを明らかにしたと発表した。この研究は、次世代天然物化学技術研究組合と、東京大学大学院薬学系研究科の嶋田一夫教授のグループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Nature Communications」に同日付けで掲載されている。
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すい臓や眼などに生じるがん細胞では多くの場合、Gタンパク質に発がん性の変異が生じており、リガンドがないときにも過剰に活性化し続けることでがん化を引き起こす。しかし、正常なタンパク質と発がん性変異体のNMRスペクトルにはほとんど違いが観測されず、立体構造の違いからがん化の機構を説明することは困難だった。
そこで研究グループは、この問題がタンパク質の静的な立体構造を比較しているためであると考え、動的な構造平衡状態に着目して解析することにしたという。
発がん性変異体では構造平衡が亢進、活性化した状態へ移行しやすいことが判明
今回の研究ではまず、構造平衡を精度よく検出するための新たなNMR測定法「多量子緩和解析法」を開発。この解析法を用いることにより、複数の構造を取り得る部位をタンパク質のNMRシグナルの緩和速度の増大から同定することが可能となる。この手法を用いて、正常なGタンパク質と発がん性変異体の緩和速度をそれぞれ測定し、構造平衡の状態を比較した。
その結果、発がん性変異体ではβ1ストランドと呼ばれるグアニンヌクレオチド結合部位近傍の構造平衡が顕著に亢進し、複数の構造を取っていることが明らかになった。さらに、生体内においてGタンパク質の活性化を抑制するRGSタンパク質を模倣したペプチドを結合させると、β1ストランドの構造平衡が抑制されていることが確認されたという。以上の結果は、Gタンパク質の活性化には構造平衡の存在が重要な役割を果たしており、発がん性変異体では構造平衡が亢進し、正常なタンパク質よりも活性化した状態へ移行しやすくなることで、がん化が引き起こされることを示している。
同成果は、タンパク質に内在する構造平衡が機能と密接に関連していることを具体的に解析する手段を提供するものであり、生理的に重要なほかのタンパク質に関する機能解明への応用が期待される。また、静的な立体構造の違いだけでは活性の違いを説明できない創薬標的タンパク質においても、構造平衡状態の変化を指標とした化合物の評価、ならびに構造平衡が存在する部位を標的部位とした薬剤設計が可能になることで、医薬品開発が加速されることも期待されると、研究グループは述べている。
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・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース