肥満した脂肪細胞における細胞ストレスがインスリン抵抗性を惹起
東北大学は2月22日、太ると血糖値が高くなるメカニズムとして、肥満した脂肪細胞の小胞体ストレスが関与することを発見し、その分子メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野の片桐秀樹教授らが、同大学大学院医学系研究科免疫学分野の石井直人教授、岩手医科大学の石垣泰教授、徳島大学先端酵素学研究所の親泊政一教授らと共同で行ったもの。研究成果は「Cell Reports」(電子版)に掲載された。
画像はリリースより
近年、食生活の欧米化にともない、肥満をともなう糖尿病患者は飛躍的に増加し、大きな社会問題となっている。肥満になるとインスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性が生じ血糖値が上昇するが、インスリン抵抗性は糖尿病のみならず、メタボリックシンドロームの基盤病態としても重要だ。
インスリン抵抗性は、肥満状態の脂肪組織に白血球の一種であるマクロファージが入り込み、炎症を起こすことによって誘導されることが知られている。マクロファージは、炎症を強める性質を持つM1型と炎症を抑える性質を持つM2型とに大別され、正常な痩せた状態での脂肪組織に存在するマクロファージはほとんどがM2型。肥満になると脂肪組織でM1型が増加し、肥満時の炎症やインスリン抵抗性の原因となると考えられていた。
糖尿病・メタボリックシンドロームに対する治療標的として期待
研究グループは今回、肥満した脂肪細胞ではCHOPと呼ばれるタンパク質が増加することを発見。CHOPは、細胞内でタンパク質合成などが過剰な状況で起こる細胞ストレスの一種「小胞体ストレス」時に劇的に増加するタンパク質。肥満状態の脂肪細胞でも増加する。このCHOPを欠損したマウスでは、肥満により脂肪組織のマクロファージは増えるものの、M2型が多いままであり、インスリン抵抗性や糖尿病になりにくいことが明らかになった。
また、痩せた状態の脂肪細胞はマクロファージをM2型に誘導するTh2サイトカインを分泌するが、肥満した脂肪細胞ではTh2サイトカインの産生・分泌が減少すること、CHOPを欠損した脂肪細胞ではこの産生減少が起こりにくいことを発見したという。さらに、培養脂肪細胞に小胞体ストレスをかけると、CHOPが増加してTh2サイトカインの産生が激減することを証明。このことから、肥満から糖尿病へとつながる機序が明らかとなり、これに関与する脂肪組織内での分子メカニズムが解明された。
これまでに研究グループでは、血管細胞におけるCHOPの増加が動脈硬化につながること、膵β細胞での小胞体ストレスがインスリンの分泌を減らすことなどを見出している。これらを総合すると、肥満状態における各臓器の細胞での小胞体ストレスによるCHOPの増加は、インスリン抵抗性と分泌低下の両面から糖尿病発症につながること、さらには、メタボリックシンドロームと血管障害の両面から動脈硬化につながることが考えられるという。
今回の研究で解明された分子機序は、糖尿病・メタボリックシンドロームおよび動脈硬化に対する統合的な治療標的になるものとして、今後の研究に期待が寄せられる。
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