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胸腺腫による新たな自己免疫疾患を発見、「抗PIT-1抗体症候群」として報告-神戸大

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2017年02月23日 AM11:00

PIT-1が異所性に発現することで免疫寛容破綻生じる

神戸大学は2月21日、胸腺腫による新たな自己免疫性下垂体疾患を発見し「」として報告したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科の高橋裕准教授、坂東弘教医学研究員、井口元三講師らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」にオンライン掲載された。


画像はリリースより

人口の約1%に発症する慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患は、原因が明確でないものも多く、重症筋無力症や全身性エリトマトーデスなど、難病に指定されている疾患が多くある。これまで研究グループは、後天性に成長ホルモン(GH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、プロラクチン(PRL)の分泌が低下する症例において、これらのホルモンの産生に必要な転写因子「PIT-1」に対する自己抗体が存在する新たな疾患を見出し、日本初の新規疾患概念「抗PIT-1抗体症候群」と名付けて報告している。また、その発症のメカニズムとして、PIT-1に対する自己免疫が原因となって、PIT-1を特異的に攻撃する細胞障害性T細胞が産生され、下垂体におけるGH、TSH、PRL産生細胞を特異的に障害することを見出していた。しかし、なぜこのようなPIT-1に対する免疫寛容の破綻が生じ、自己免疫が起こったのかについては不明な状況だった。

今回、研究グループは、「抗PIT-1抗体症候群」全例に胸腺腫が存在し、その胸腺腫瘍細胞において本来存在していないPIT-1が異所性に発現することにより、免疫寛容破綻が生じていることを明らかにした。胸腺では、T細胞の育成と、ポジティブ選択・ネガティブ選択が行われるが、この過程で、まず胸腺の皮質ではさまざまな抗原に反応できるよう教育された後に(ポジティブ選択)、胸腺の髄質において自己の細胞を攻撃するようになったT細胞は排除され(ネガティブ選択)、正しく非自己の細胞を攻撃できるようになったT細胞のみが産生される。しかし、「抗PIT-1抗体症候群」では、胸腺腫により、PIT-1が本来あるべきでない腫瘍細胞に発現することにより、PIT-1に反応する異常なT細胞が教育され、ネガティブ選択を行う髄質が存在しないために、自己免疫を引き起こしていることが明らかになったとしている。

傍腫瘍症候群や一般の自己免疫疾患のメカニズム解明、治療法開発に期待

この結果から「抗PIT-1抗体症候群」は、よく知られている胸腺腫に伴う重症筋無力症などと同様に、胸腺腫によって引き起こされる新たな自己免疫疾患であることがわかった。また、下垂体機能低下症の約20%が原因不明とされているが、今回の発見によってこの原因の一部を世界で初めて解明した。これにより、今まで原因不明とされていた下垂体疾患・下垂体機能低下症の患者の一部に対し、適切な診断・治療を行うことが可能となった。また、胸腺腫の患者の中にもこの症状を持つ人が潜んでいる可能性があり、診断、治療が可能となる。

また、胸腺腫によって重症筋無力症が発症することはよく知られているが、その発症のメカニズムは十分明らかになっていない。今回の発見は、この「抗PIT-1抗体症候群」のメカニズムだけではなく、重症筋無力症を始めとする、胸腺腫によって引き起こされる他の自己免疫のメカニズムの解明につながるものとなる。さらに「抗PIT-1抗体症候群」は、悪性腫瘍に伴ってさまざまな自己抗体と自己免疫が生じる「」にも位置付けられることから、難病である傍腫瘍症候群や、一般の自己免疫疾患のメカニズムの解明、治療法開発に結びつく可能性があると、研究グループは述べている。

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