■政令市で初‐4月スタート
埼玉県のさいたま赤十字病院は、事前に取り決めた7項目について院外処方箋の調剤時に疑義照会を不要とする合意書を地元のさいたま市薬剤師会と交わし、4月から運用を開始する。1月からさいたま新都心に全面移転したことをきっかけに、発行処方箋の9割以上を応需している地元のさいたま市薬剤師会と協議し、プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の一環として合意書を締結することになった。さいたま市は人口120万人の大都市で、市薬剤師会の会員は313薬局に上る。政令指定都市では初めての合意書締結となる。地域の患者を支えるため、首都圏の大都市で新たな試みがスタートする。
疑義照会を不要とするのは、▽成分名が同一の銘柄変更(変更不可の処方を除く)▽内用薬の剤形の変更▽内用薬における別規格製剤がある場合の処方規格の変更▽無料で行う半錠、粉砕あるいは混合▽無料で行う一包化▽貼付剤や軟膏類の包装・規格変更▽その他合意事項――の7項目。これらについては医師の同意が得られたとし、処方医への確認を不要とした。
町田充薬剤部長は「さいたま新都心への移転をきっかけに、今までの院外処方箋のあり方を考え直した。地域のために役立つ院外処方箋のあり方を考えたとき、疑義照会を少しでも簡素化し、患者サービスにつながればと考えた」と話す。
一方、市薬剤師会の堀野忠夫会長は「疑義照会をしても医師と連絡がつかず、患者さんを待たせてしまう」との声が会員から出ていたため、何らかの形で合意を結ばなければ解決しないとの思いを抱いていた。
そこで、東京都の青梅市立総合病院の取り組みなどを参考に同院と市薬剤師会が協議した結果、院外処方箋の疑義照会は、7項目に関して原則不要とする合意書を交わすことにした。その他の合意事項で、漢方薬の食後投与など、添付文書に記載されている用法と異なる指示だった場合、理由を薬歴簿に明記した上で医師の同意が得られたものとして対応できるようにしたのは、さいたま市の合意の特徴である。これにより、従来行っていた疑義照会の約半数が問い合わせ不要になるという。
もともと移転前から町田氏は、地域薬剤師会との協力を模索していた。同院では、薬局からの疑義照会は薬剤部を介さず直接診療科に行う仕組みになっていたため、「結構苦労しているのではないか」(町田氏)との心配もあった。また、町田氏と堀野氏は大学の先輩後輩の関係にあったことから対話の機会が増加。お互いに本音を知ることにより信頼を深め、今回の合意につながった。
同院の院外処方箋発行率は89%。その9割以上を市薬剤師会の会員313薬局で応需している。1日外来患者数は1000~1200人で、1日500枚程度の院外処方箋が出ていることになる。町田氏は「立地上、門前薬局が多く建つ環境になく、どうしても面分業をしなければならない。そのためには誰もが分かるような簡単な合意書が必要」と話している。
特に今回は、大都市の基幹病院と薬剤師会による合意であるため、地域や会員薬局に与える影響が大きいとして、剤形変更や規格変更は内用薬に限定した。
市薬剤師会の野田政充理事は「なかなか薬局ごとの運用を全て合わせるのは難しく、個々の薬剤師で解釈が違っては患者さんにデメリットになることが考えられたため、まずは狭めた形で合意書を結んだ」と説明。「合意書を運用して改善点などを話し合い、随時メリットがある内容に作り替えていくことが必要」と強調する。堀野氏も「今回の合意をきっかけに、市内の他の基幹病院とも合意を結んでいきたい」としている。
今後の展開として、町田氏は「PBPMを薬局に展開したい」と意欲を示す。例えば、抗癌剤を服用している患者に吐き気の副作用が見られた場合、予め定めた病院と薬剤師会によるプロトコールに基づき、薬剤師による変更を認めるというものだ。「患者さんも受診せずに済み、早く苦しみから解放され、医師の負担軽減にもなる」と町田氏。「今回の合意をその足がかりにしたい」と意気込む。