簡単な刺激によりM2ミクログリアに変化できることを初めて明らかに
新潟大学は2月9日、薬剤を用いない簡単な刺激で脳保護的なミクログリアに変化できることを初めて見出し、この細胞を脳梗塞ラットに投与したところ、その後遺症が大幅に改善したと発表した。この研究は、同大学脳研究所神経内科の下畑享良准教授らの研究グループが、新潟病院と共同で行ったもの。研究成果は「Scientific Reports」に2月14日付けで掲載されている。
画像はリリースより
脳卒中は、日本人の死因の第4位、寝たきりの原因の1位であり、高齢社会を迎えた今、2人に1人が脳卒中を発症する時代だ。なかでも脳梗塞は近年増加の一途を辿っているが、慢性期の治療は再発予防が主体で、機能回復療法はリハビリに限られており、後遺症をもつ患者が多くいることが社会的な問題となっている。
脳梗塞後における脳の障害のメカニズムは非常に複雑で、さまざまな物質が関わっているため、単一の物質を標的とする薬物治療で十分な効果を期待することは困難。さらに、脳には血液脳関門があるために、薬剤が到達しにくいという問題も持ち合わせている。
がん化のリスクがなく、より有効で安全な臨床応用が可能に
そこで研究グループは、ミクログリアに着目。ミクログリアは、状況によって強力で多彩な脳保護作用を持つM2ミクログリアに変化するうえ、血液脳関門を通過して脳梗塞病変に集まる性質を持つ。このミクログリアを、酸素とブドウ糖の濃度が低下した、脳梗塞に類似した環境に短時間曝露させるという簡単な刺激を与えることで、脳保護的なM2ミクログリアに変化することを初めて発見。脳梗塞を発症後、すでに1週間経過したラットにその細胞を投与すると、血管のバリアを越えて脳内に入り込み、成長因子やいくつかの脳保護タンパクを脳梗塞の病変周囲で増加させることがわかったという。さらに、脳梗塞病変における新しい血管の再生や神経細胞の再生が促進された結果、脳梗塞後遺症である運動感覚障害の回復が促進されることも世界で初めて明らかにした。
脳梗塞に対する細胞療法では、iPS細胞や幹細胞などについて研究されているが、これらと比較して細胞の操作が簡便であり、発症早期からの治療が可能である点やがん化のリスクがない点で、より有効で安全な臨床応用が可能になるという。実用化されれば、比較的簡単な操作でミクログリアのM2化が可能であるため、専門的な細胞調整センターをもたない一般病院における治療の普及につながる。さらに、ミクログリアは現在の技術で脳から採取できるほか、血液中にもミクログリアに似た細胞が存在するため、さらに簡便な治療法を開発できる可能性があると、研究グループは述べている。
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・新潟大学 研究成果