■聖マリ医大が報告書‐新たに6試験の中止勧告へ
聖マリアンナ医科大学は14日、神経精神科学教室の准教授らが実施した抗精神病薬ブロナンセリンとアリピプラゾールの医師主導ランダム化比較臨床試験で、実際は単剤試験になっていた実施計画の変更を隠ぺいし、被験者からの開示要求に対してカルテを勝手に改ざんするなどの不正が行われていたと結論づける調査報告書を公表した。製薬企業から講師謝金等を受け取っていた利益相反も申告せず、報告書は「企業に有利となるよう不正を行ったのではないかという疑念を拭えない」と指摘。さらに、同教室が関わる他の6試験でも割付が行われないなどの違反が発覚し、これら試験の中止を勧告した。
同研究は、統合失調症患者を対象に、抗精神病薬のブロナンセリンとアリピプラゾールをランダム化して投与し、認知機能障害に対する効果と両剤の違いを比較検討する目的で実施された。一連の不正は、同教室で精神保健指定医の不正取得が発覚し、責任医師の資格取消処分を知った被験者が臨床試験への参加取り消しとデータ削除を求めたことを契機に明るみに出た。既に同大生命倫理委員会からの勧告により、研究は中止されている。
具体的には、被験者の要求を受け、責任医師の准教授と大学院研究推進課、医療安全管理室が対応を協議し、「資料は全て廃棄した」と虚偽の報告を被験者に行い、責任医師はカルテ開示を求められると想定して電子カルテの記載を改ざんした。ブロナンセリンの薬剤名を消して抗精神病薬と記載に変えたり、同意を得たことを追記するなどの書き換えが行われた。
その後、カルテを被験者に開示したところ、修正履歴も印刷されたものが手渡されたことにより、改ざんを指摘された。これら不正について、報告書は「責任医師の臨床試験データの管理、保管不備、カルテ開示を想定した改ざん行為、当事者意識の欠如が最悪の事態を招いた主な原因」と糾弾。原資料の破棄の責任は、責任医師である准教授にあるとした。診療部長である教授、その指導監督を行う大学の責任も免れないと指摘した。
一方で、同研究の調査を行った結果、実施計画書では2剤をランダム化して投与する計画だったものの、実際にはブロナンセリンの研究がランダム化されず先行しており、実施計画書から逸脱していることが判明した。
カルテ調査を行ったところ、ブロナンセリン対照群10例中2例しか同意が取得できておらず、試験期間延長についての同意も全例で再同意を得ていなかった。ブロナンセリン対照群でエントリー基準を満たさない5例が組み入れられており、カルテ調査の結果から3例が不適格であることが確認された。
さらに、利益相反の状況について調べたところ、責任医師はブロナンセリン、アリピプラゾールを販売する大日本住友製薬、大塚製薬から講師謝金などの資金を得ていたが、そのことを被験者に説明せず、大学の窓口である人事課にも申告していなかったことから、報告書は「責任医師が講師謝金などを受け取った製薬企業の利益になるよう、それらを行ったとの疑念が拭えない」と指摘。ブロナンセリンのパンフレットに一部データが利用され、MRが配っていた事実も発覚し、多数の不適格事例を含んだままのデータを販促の形で利用したことは「研究者のモラルを逸しており、はなはだ不適切」と断じた。
同教室が関わった他の臨床試験についても調査した結果、実施中の11試験のうち比較試験6試験では割付が行われておらず、実際に治療に偏りが見られる試験もあったため、これら6試験について同大生命倫理委員会による中止勧告が必要とした。
今回の臨床試験不正について、調査委員会は「実施計画どおりに適切に行われていなかったことが最大の問題」と指摘。再発防止策として、臨床試験に関する学内教育の徹底や体制整備、利益相反の明確化、職員倫理の徹底と公益通報窓口の再確認が必要とし、倫理指針に則って臨床研究を進めることを徹底すべきと提言した。