無花粉遺伝子を保有している個体かどうかの判定、現段階で100%の精度
九州大学は2月13日、無花粉スギ「爽春」の無花粉遺伝子を高い精度で検出できるDNAマーカーを開発したと発表した。この研究は、同大学大学院農学研究院の渡辺敦史准教授と、森林総合研究所林木育種センターの星比呂志育種部長らの研究グループによるもの。研究成果は2017年1月に米国サンディエゴで開かれたPlant and Animal Genome Conference XXVで発表された。
画像はリリースより
スギ花粉症は1963年に日光市で初めて報告されたが、その後花粉症は全国的に増加し、現在では国民の3割が罹患しているともいわれている。林業分野におけるスギ花粉症対策は花粉の発生源を減少させることが基本だ。森林総合研究所では成長の早い精英樹を品種改良の母材料として、少花粉品種を142品種、低花粉品種を11品種、無花粉品種を3品種開発しているが、花粉症対策品種を短期間に効率的に開発するためには、少花粉スギ、低花粉スギや無花粉スギの特性に関わる遺伝子を保有している個体を高い精度で識別できるDNAマーカーの開発が必要となっていた。
研究グループは、スギの針葉や木部、雄花等から遺伝子の塩基配列情報を収集して、その情報を元に約7万のDNAマーカーを開発。これらのうちのひとつのDNAマーカーが無花粉スギ「爽春」の無花粉遺伝子を高い精度で検出できるDNAマーカーであることがわかった。このDNAマーカーで塩基のタイプを調べることで、無花粉遺伝子を保有している個体かどうかを判定することができ、現段階で100%の判定精度となっているとしている。
花粉が飛散しない多様な無花粉スギの開発を推進
実際に、このDNAマーカーを用いてスギ精英樹の1,063個体を分析し、TCタイプを有する個体(無花粉遺伝子をヘテロで有する可能性がある個体)を探索。TCタイプであった8個体中の3個体の花粉を用いて、無花粉スギ等と交配したところ、交配して得られた苗木の中から無花粉個体がみつかった。このことから、今回開発されたDNAマーカーは、無花粉遺伝子をヘテロで保有している個体(花粉は形成するが潜在的に無花粉遺伝子を持っている個体)を新規に探索することに活用できることがわかった。
今回開発されたDNAマーカーの活用により、無花粉スギの改良が効率的になり、改良のスピードを早めることができ、また、無花粉遺伝子を保有している新規個体の探索に役立てることが可能となる。研究グループは、爽春と精英樹の交配により、成長にも優れた無花粉スギを開発しているが、今後も無花粉スギとの交配や、その交配によって得られた後代の個体間での交配、それらの個体の成長試験等に取り組み、花粉が飛散しない多様な無花粉スギの開発を進めていくとしている。
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