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藻類と動物細胞の共生リサイクル細胞培養システムで厚い立体組織を作製-東京女子医大

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2017年02月15日 AM11:45

生体外での臓器様組織作製の可能性を探る

東京女子医科大学は2月3日、藻類と動物細胞を共培養することにより、厚い立体心筋組織の作製に成功したと発表した。この研究は、同大学先端生命医科学研究所清水達也所長・教授、原口裕次特任講師らの研究グループと、早稲田大学との共同研究によるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」電子版に掲載された。


画像はリリースより

同研究所はこれまでに、新しい組織工学的手法である「細胞シート工学」を用いて多くの組織の作製を行っており、眼科学・循環器外科学・消化器外科学・歯科口腔外科学など6つの科において治験・臨床研究を実施してきた。複数の細胞シートを積層し、立体的に細胞を積み上げる技術が開発されたことで、より多くの細胞の移植が可能となったが、厚い組織の構築においては、内部に壊死が起こることと組織内部の低酸素・低栄養が原因で、これまで作製に成功していなかった。厚い組織の作製は、大量の細胞移植を可能にし、効果的な治療法の確立や治療適応の拡大、さらには生体外での臓器様組織作製の可能性を探るもので、組織工学・再生医療分野のみならず医学に大きなブレークスルーをもたらすと考えられている。

何らかの方法で組織内部に酸素・栄養を送り、また有害代謝産物を除去できれば、組織障害を起こすことなく厚い立体組織を作製できると考えられることから、研究グループは、地球上で多様な生物が炭素・酸素・窒素循環を通じて形成している「共生リサイクル社会」を、細胞培養皿上で実現できないかと考えた。そこで、低酸素・低栄養・有害代謝産物が蓄積された過酷な環境下で、維持・培養されている厚い心筋組織内の培養環境を、光エネルギーを利用し藻類との共培養により改善させる新規細胞・組織培養法および厚い組織作製法の確立を目指して研究を行ったという。

光エネルギーを用いた臓器様組織作製の可能性

培養皿上の酸素濃度を測定したところ、動物細胞が高密度で培養されている環境は非常に低酸素状態にあった。一方、光照射のもと藻類と共培養することで酸素濃度は顕著に上昇することが明らかになったという。これらの結果は、動物細胞との共培養下でも藻類が光合成をおこない活発に酸素を産生することを示している。研究グループは、心筋細胞シートを積層化して厚い組織を作製する際に、細胞シート間に藻類を挟むことで藻類共培養心筋組織を作製したという。この結果は、光エネルギーを用いることにより生体外で臓器様組織を作製できる可能性を示唆している。

研究グループによると、生体外で作製した共培養組織を再生医療に用いる場合は移植前の藻類の除去を考える必要があるが、医薬品の効果や毒性を評価する生体外組織モデルとして利用できるという。動物細胞は医薬品などの有用なタンパク質生産にも用いられているが、藻類との共培養はそれらのタンパク質生産を向上させる可能性もあるものとして、今後の研究に期待が寄せられる。

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