ミュータンス菌保菌者、非保菌者に対し14.3倍の脳内微小出血発症リスク
京都府立医科大学は2月9日、コラーゲン結合能を持つミュータンス菌と認知機能の低下の関係性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科地域保健医療疫学の渡邉功助教、栗山長門准教授らによるもの。この研究に関する論文は、科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に2016年12月9日付けで掲載されている。
画像はリリースより
無症候性の脳内微小出血(Cerebral microbleeds)は、症候性脳卒中や認知症の重要なリスク因子だが、その発症メカニズムは十分に明らかとなっておらず、さまざまなリスク因子が報告されている。喫煙や飲酒などの生活習慣、高血圧症・脂質異常症などの従来から報告されてきたリスク因子とは別に、う蝕(むし歯)の主要因子のひとつであるミュータンスレンサ球菌(Streptococcus mutans)のうち、血管壁のコラーゲンと結合することで血管の損傷部位に集まって血小板の止血作用を阻害する性質を持つCnmタンパク陽性株が脳内微小出血の発症に関与することを、2015年10月に京都府立医大より(Miyatani F, et al. 2015)、また、2016年2月に国立循環器病センターより(Tonomura S, et al. 2016)報告した。
しかし、急性脳卒中患者ではない一般住民において、コラーゲン結合能を持つミュータンス菌と、脳内微小出血の発症部位や認知機能の低下がどのように関与しているかは明らかにはされていなかった。
そこで、今回の研究は、地域の一般住民を対象とした横断研究として実施。2015年に報告した論文では、139人の研究対象者においてコラーゲン結合能を持つミュータンス菌保菌者は非保菌者に対して14.4倍の脳内微小出血発症リスクだったが(Miyatani F, et al. 2015)、今回の研究対象者279人においても14.3倍のリスクであり、いずれも高いリスクを示す結果となり、コラーゲン結合能を持つミュータンス菌と脳内微小出血の関連は非常に強いことが示唆された。
脳卒中や認知機能低下のリスクを下げる因子の検討へ
また、研究では、脳内微小出血の発生部位にも注目。脳内微小出血は発生する部位により、深部型、皮質型、混合型(深部型+皮質型)の3タイプに大別される。急性脳卒中患者を対象とした先行研究では、ミュータンス菌のコラーゲン結合能と深部型脳内微小出血が関連していたが(Tonomura S, et al. 2016)、一般住民を対象とした今回の研究でもコラーゲン結合能を持つミュータンス菌保菌者群は、深部型脳内微小出血の発症の割合が高い結果になった。加えて、脳血管疾患の症状の表れていない一般住民でも、コラーゲン結合能を持つミュータンス菌の保菌により深部型脳内微小出血発症のリスクを高め、将来の脳血管疾患の前兆となっている可能性を示したとしている。
さらに、深部型脳内微小出血は認知機能障害に関与する報告がされているが、同研究においてもコラーゲン結合能を持つミュータンス菌保菌者群は単語想起課題(1分間に「か」のつく言葉をいくつ言えるかのテストなど)において、明らかなスコアの低下が見られ、自覚症状なく少しずつ認知機能低下を起こしている可能性を示した。
これまでの研究から、一般住民の4人に1人はこの菌を保菌している可能性があるため、保菌している人の口腔衛生・口腔内環境を向上させることで脳関連疾患の発症頻度を減少させることができると考えられる。今後は、研究成果をもとに、この菌を保菌している人が将来にわたって脳卒中や認知機能低下の発症を防ぐことができるよう、脳卒中や認知機能低下のリスクを下げる因子の検討を進めていくとしている。
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・京都府立医科大学 プレスリリース