幹細胞が分化シグナルからどのように守られているのか調査
筑波大学は2月10日、マウス精子幹細胞の分化を促すシグナル分子を明らかにし、さらに、一部の幹細胞でこのシグナル分子の作用を弱めることで幹細胞を残すという新たなメカニズムを発見したと発表した。この研究は、基礎生物学研究所の徳江萌研究員、吉田松生教授らと筑波大学、横浜市立大学などの研究グループによるもの。研究成果は「Stem Cell Reports」オンライン版に2月9日付けで掲載されている。
画像はリリースより
精子幹細胞は未分化な細胞で、バランスのとれた幹細胞の維持と分化は、多くの組織にある幹細胞システムに共通する重要な性質である。これまでの研究から、細胞分裂時には必ず1個の幹細胞と1個の分化細胞を作る「非対称分裂による制御」と、幹細胞は「幹細胞ニッチ」と呼ばれる特殊な場所にいる限り分化せず、「ニッチ」の外に出ると分化するという、「幹細胞ニッチによる制御」がわかっている。
しかし研究グループはこれまでに、マウスの精子幹細胞は「非対称分裂」によって維持されているのではないこと、精子を作る精細管にはこのような特別な場所はなく、幹細胞は、分化細胞と入り混じって活発に動きまわっていることを明らかにしており、精子幹細胞の分化と未分化のバランスを作るメカニズムについては明らかになっていなかった。
Shisa6を発現していない細胞がWntシグナルを受け取り分化細胞に
研究グループは今回、培養した精子幹細胞でWntシグナルの働きを調査。さらに、Wntシグナルを増強した変異マウスを用いて、精子幹細胞に対するWntシグナルの働きを解析したところ、Wntシグナルによって分化を示す遺伝子の発現が上昇し、変異マウスでは幹細胞の数が減少して精巣が小さくなったことから、Wntシグナルが精子幹細胞の分化を促進することが明らかとなった。
また、Shisa6遺伝子にこれまで知られていなかったWntを阻害する働きがあること、Shisa6遺伝子を破壊してWntシグナルを強くすると、幹細胞の数が減少し、精巣が小さくなることがわかったという。
今回の研究から、Shisa6を発現する幹細胞と発現しない幹細胞では、Wntシグナルの受け取りやすさに違いが生まれることで、幹細胞と分化細胞が生み出されることが明らかとなった。これは精子幹細胞だけでなく、明確な幹細胞ニッチが見られない他の組織でも共通するメカニズムの可能性もあるという。ヒトの体が、長期間にわたり機能し続けるためにとっている戦略について、理解を深める助けになると、研究グループは述べている。
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