マイクロアレイ「Immunochip」を用いた大規模な遺伝子解析研究
横浜市立大学は2月7日、ベーチェット病を対象とした過去最大規模の遺伝子解析研究を行い、同疾患の遺伝要因(疾患感受性遺伝子)および発症メカニズムを詳細に解明したと発表した。この研究は、同大学学術院医学群眼科学の竹内正樹博士と水木信久主任教授、目黒明特任講師らが、アメリカ国立衛生研究所、トルコ・イスタンブール大学などと共同で行ったもの。同研究成果は、国際雑誌「Nature Genetics」に掲載されている。
画像はリリースより
ベーチェット病は厚生労働省の特定疾患(難病)のひとつ。原因不明の全身性炎症性疾患で、長期間にわたり再発と寛解を繰り返し、重症例では眼病変により失明に至ることもある。発症には遺伝要因と環境要因の両方が関与していると考えられており、最も強い遺伝要因としてHLA-B*51が知られている。しかし、発症メカニズムは明らかになっておらず、それに関与する遺伝要因と環境要因の全容を解明する必要がある。
ヒトの遺伝情報には0.1%程度の多型性があり、そのひとつである一塩基多型(SNP)と疾患との関連について多くの研究が行われてきた。特に、2000年代後半からはマイクロアレイを用いてゲノム全体を網羅するSNP解析であるGWASが可能になり、ベーチェット病では、2010年に水木主任教授らのグループが行ったGWASで、新規の疾患感受性遺伝子としてIL10およびIL23R-IL12RB2の2遺伝子領域が初めて報告された。その他、さまざまな疾患のGWASの結果をもとにして、免疫に関連する遺伝子領域を特異的かつ高密度に解析することができるマイクロアレイ「Immunochip」(イルミナ社)が開発され、これによって他の免疫関連疾患で新たに多くの疾患感受性遺伝子が同定されている。
同定された疾患感受性遺伝子の多くが、クローン病やハンセン病とも共通
今回研究グループは、Immunochipを用いたベーチェット病の遺伝子解析を行うため、日本・アメリカ・トルコ・ポルトガル・イランの5か国で国際共同研究を遂行。同研究では、日本人・トルコ人・イラン人集団の患者計3,477例および健常者計3,342例を用いて遺伝子解析を実行したという。
その結果、ベーチェット病の疾患感受性遺伝子として新たに「IL1A-IL1B」、「RIPK2」、「ADO-EGR2」、「LACC1」、「IRF8」、「CEBPB-PTPN1」領域を同定。また、同定した遺伝子の機能解析により、IL1A-IL1BのSNPのリスクアリルを2個保有する人ではIL-1βが増加し、IL-1αが低下していることが明らかになったという。このことから、IL-1αの皮膚バリア機能の低下によって、侵入した病原体へのIL-1βを介した過剰な免疫反応がベーチェット病の発症メカニズムに関与することが示唆された。
さらに、今回の研究で同定された疾患感受性遺伝子の多くが、炎症性腸疾患であるクローン病や、感染症であるハンセン病と共通することが判明。これらの成果により、ベーチェット病の疾患感受性遺伝子や発症メカニズムが解明されただけでなく、将来的には個人の遺伝情報に基づいた、効果的で副作用の少ない新たな治療薬の開発が期待されると、研究グループは述べている。
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