脊髄固有ニューロンを介する神経経路がどのように回復に影響を及ぼすかを調査
京都大学は2月8日、脊髄損傷後早期に脊髄内の神経細胞が運動機能回復に重要な役割を果たすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学研究科の伊佐正教授、渡邉大教授、生理学研究所の當山峰道研究員、小林憲太准教授、弘前大学の木下正治准教授、福島県立医科大学の小林和人教授、慶應義塾大学の里宇明元教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は「Proceedings of the National Academy of Sciences」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
脊髄損傷の多くは、大脳皮質運動野から脊髄の運動ニューロンに情報を伝える皮質脊髄路を介した神経経路が傷つくことで運動麻痺が生じる。しかし、その多くは一部の神経だけが傷ついている不全損傷で、損傷を免れた神経が脊髄内に存在する。この残された神経経路が運動麻痺の回復にどのように役立っているのか、その詳細は明らかにされていなかった。
共同研究グループは、サルの皮質脊髄路損傷後に、損傷部位をバイパスして運動野からの指令を脊髄の運動ニューロンに伝えることができる脊髄固有ニューロンに着目。過去の研究により、皮質脊髄路を第4~5頚髄のレベルで損傷したサルは、運動麻痺により手指の細かな運動ができなくなっても1~3か月後には回復することがわかっていることから、近年開発された2種類のウイルスベクターを用いた神経回路操作技術を、第4~5頚髄のレベルで皮質脊髄路損傷をしたサルの脊髄固有ニューロンに適用。2種類の異なるタイミングで脊髄固有ニューロンを阻害し、脊髄固有ニューロンを介する神経経路がいつ、どのように回復に影響を及ぼすかを調べた。
脊髄損傷の新たな治療法開発やリハビリの神経学的な基盤の解明に期待
皮質脊髄路を損傷させてから手指の細かな運動がある程度回復したときに脊髄固有ニューロンを一時的に阻害したところ、手指の細かな運動は部分的に障害されたがすぐに回復。次に、皮質脊髄路損傷を行う前から損傷後3~4か月半まで継続して阻害し続けたところ、手指の細かな運動は回復しかけた途中で止まってしまった。
これらの結果から、回復過程には少なくとも2段階があり、最初の段階に重要な役割を果たす脊髄固有ニューロンがうまく働かないと回復がよく進まなくなる一方で、一旦回復が進むと、おそらく他のニューロン群も回復に関わることになり、脊髄固有ニューロンの重要度は相対的に低下してしまうことがわかった。
今回の研究で、これまで明らかになっていなかった脊髄損傷後回復過程の早期において重要な役割を果たす脊髄のニューロン群を特定できた。脊髄固有ニューロンを介する神経経路のように、損傷を免れて残存する神経ネットワークを時期特異的に賦活させて運動麻痺の回復を促進させるなど、脊髄損傷の新たな治療法の開発やリハビリテーションの神経学的な基盤の解明につながる成果だと、共同研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果