約1時間かかっていた検査時間を約10分に短縮
産業技術総合研究所は2月8日、片手で持ち運べるほど小型・軽量で、従来は約1時間かかっていた検査時間を約10分に短縮した「モバイル遺伝子検査機」(小型・軽量リアルタイムPCR装置)の開発に成功したと発表した。これは、JST先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として、日本板硝子株式会社、産総研、および株式会社ゴーフォトンが共同開発したもの。
画像はリリースより
近年、細菌やウイルスによる集団感染や食中毒が問題となっている。このような場合に必要なのが、原因となる細菌やウイルスの特定作業だが、現在これらを高精度に測定する手段は遺伝子検査に限られている。これまでのPCR装置は、大型で消費電力が大きく、価格も高いことから専門施設内での利用に限られているため、現場からサンプルを送付する必要があり、さらに測定に約1時間かかることも普及の足かせとなっていた。
産総研は、遺伝子検査方法の中で最も普及しているPCR法に着目。薄くて小さなプラスチック基板にマイクロ流路を作製し、そこに試料を注入して高温・低温の領域間で試料を高速に移動させることにより遺伝子を増幅させ、蛍光で検出する原理を開発した。
バッテリー駆動が可能、幅広い分野での活用に期待
日本板硝子は、光通信などに使用されるSELFOC(R)マイクロレンズの技術を利用した小型蛍光検出器を開発した。これは暗箱を必要とせず高感度で蛍光を測定できる検出器で、振動に強い特長を持つためモバイル遺伝子検査機のキーデバイスとなる。さらに、マイクロ流路内の試料を精度よく安定して移動させる方法を開発し、小型・軽量・高速のモバイル遺伝子検査機の試作機を完成させた。モバイル・高速という特長を持ちながら精度は従来の大型・高価格なPCR装置とほぼ同等で、価格は大幅に低減することができた。さらに、産総研で高速に反応するPCR試薬を作製し、これを用いて試作機でPCR増幅テストを実施。モバイル・高速でも従来のPCR装置とほぼ等しいことが確認できたとしている。
これまで専門施設に1日かけて送付し確定診断を待っていた遺伝子検査が、今回開発したモバイル遺伝子検査機により、適切な前処理と高速試薬の組み合わせで、専門施設外で迅速に行える。そのため、食品衛生、感染症予防、環境汚染調査や食品工場や学校などの公共施設など幅広い分野での活用が期待される。初期段階でノロウイルスやO157のなどの感染を特定できれば、迅速な対応も期待できる。
さらに、バッテリー駆動が可能で、ある程度の振動にも耐えられるため、移動中の救急車や航空機の中での使用に対応できれば、遺伝子検査機としての利用範囲の拡大も期待される。今後の課題として、この装置の特長を最大限に生かすため、検査対象ごとに最適化された高速PCR試薬や前処理技術が必要であり、準備を進めていく。試作機は、研究機関、大学向けには試験的に供給し実地検証を開始しているが、発売は、日本板硝子より年内を目標に開発を進めていくとしている。
▼関連リンク
・産業技術総合研究所 研究成果