同大学学長の糸魚川直祐氏、バイオサイエンス研究所長の市川厚氏、木下氏、事務局長ら4人が発起人となって昨年夏に合同会社を立ち上げた。所在地は西宮市の同大学中央キャンパス。発足後準備を進め、今春から本格的に事業を開始するメドが立った。
収益の柱はアルコール体質の遺伝子解析事業だ。対象者には専用キットを渡し、キットに添付したスワブでほほの内側をこすって口腔粘膜細胞を採取してもらう。それをサンプリングシートのプレートに押し当てた上で、シートを二つ折りにして30分以上乾かす。添付の封筒でシートを回収し、試料に含まれる2種類のアルコール体質遺伝子の多型を解析。その違いを踏まえて、お酒に強いが抜けにくい「A型」から、まったく飲めない「E型」まで5タイプに分類して解析結果を伝え、お酒との上手なつき合い方を考えてもらう。
木下氏は、唾液や口腔粘膜などから目的の遺伝子を迅速、安価、簡便に解析できる方法を5年以上前に確立した。▽生体材料を乾燥させて使う▽生体材料からDNAを抽出・精製する工程を省略する――ことが特徴だ。
その技術を生かして、大学生や社会人を対象に、アルコール体質遺伝子を解析し、お酒とのつき合い方を教える講義を各地で実施してきた。武庫川女子大学・短期大学の各学部、武蔵野大学薬学部、九州大学農学部のほか九州地区の各大学の学生、各酒造メーカー社員、人間ドック受診者などを対象に年間5000人前後の解析を行っている。
今年4月以降はベンチャーでこの事業を実施する計画だ。木下氏は「研究成果の社会還元をさらに強めたい。もっと幅広い人にアルコール体質遺伝子を解析する機会を提供したい。そのためには会社として実施した方が好ましいと考えた」と語る。初年度は、全国の薬系大学新入生や酒造メーカー社員らに対象を広げ、年間1万人の解析を目指す。将来は年間10万人規模に発展させたい考えだ。
今までも対象者から実費を得ていたが、それを明確化させる。大学生は1人当たり500~800円、企業の社員などは1500~2000円で遺伝子解析を請け負う。独自の解析技術に加え、大学の設備を活用することで、他社の同様の事業に比べて安い価格で遺伝子解析を行えるという。
事業の本格開始時には、同大学卒業生の現スタッフにワークシェアリングによってアルコール体質検査業務を担当してもらう。当初の運営は発起人の出資によって賄い、事業で得た収入を人件費や消耗費の支払いに充てる。大学発ベンチャーを支援する公的資金の獲得も狙っていく。
一般向けに、医薬品卸を介して薬局店頭で遺伝子解析キットを販売するルートの構築も視野に入れている。来年4月の開始に向けて準備を進めている段階。店頭価格は5000円前後になる見通しだ。
一方、女性の薬局薬剤師と共同で、飲酒やアルコール体質と乳がん罹患率の相関を調べるコホート研究にも取り組みたい考え。乳がん患者や女性薬剤師のアルコール体質遺伝子などを解析し、乳がん罹患率の違いを調べる。また、研究の一環として、薬物代謝酵素の遺伝子多型解析や、末梢血を乾燥させたろ紙による薬物血中濃度測定を行い、タモキシフェンの個別化医療を薬局薬剤師が医師に提案できるよう支援する。