運動中の感覚ゲーティング、脳が繊細にコントロール
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は2月6日、運動中に手の感覚が抑制される新たな神経機構を解明したと発表した。この研究は、同センター神経研究所モデル動物開発研究部のジョアキム・コンフェ、金祉希研究員および関和彦部長らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「The Journal of Neuroscience」に掲載された。
画像はリリースより
熱いものを手で触ったときに無意識にその手を振り、それによって「熱い」という感覚が軽減するなどの、状況に依存した感覚反応の抑制は「感覚ゲーティング」と呼ばれ、自己の運動中に顕著であることが心理学的研究から明らかにされていた。しかし、自分の運動中に末梢感覚が変化する現象をひきおこす脳内の仕組みは明らかになっていなかった。
統合失調症などの精神疾患の病態理解や診断に
研究グループは、皮膚感覚を伝える末梢神経がまず、脊髄で中継されることに注目。サルが手首を動かしている最中に、手指の皮膚および筋の感覚神経を直接電気刺激する方法を開発した。その電気刺激を用いて皮膚と筋感覚に関わる脊髄神経の反応を記録することに世界で初めて成功。皮膚神経に対する脊髄神経の反応を調べると、予想通り運動中に減弱していることがわかったという。
この現象は、既に知られている感覚ゲーティング現象を反映していると考えられたが、同様に筋神経への反応をみると、皮膚神経反応のように抑制されておらず、逆に促進していた。この反応は通常の感覚ゲーティングの考え方とは逆であり、脳による感覚ゲーティングがこれまで考えられていたよりも、繊細に細かくコントロールされることが明らかになったという。
今回の研究結果から、運動中の感覚ゲーティングは一様でなく、重要な感覚を抽出、そうでない感覚を抑制するという、細やかなコントロールが脳によってなされていることが明らかとなった。今後は、感覚抑制と抽出、両者の背景にある分子レベルの仕組みを調べる研究が盛んになると予想される。自他の行動識別に用いられる脳機能の解明が、統合失調症などの病態理解や診断に役立つことが期待されると研究グループは述べている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース