ウイルス排除後における肝発がんの予測と予防が重要な課題
日本医療研究開発機構(AMED)は2月6日、C型肝炎ウイルス(HCV)排除後の肝発がんに関わる遺伝要因を世界で初めて発見することに成功したと発表した。この研究は、AMEDの肝炎等克服実用化研究事業の一環として、名古屋市立大学大学院医学研究科の田中靖人教授、松浦健太郎研究員が、東京大学大学院医学系研究科の徳永勝士教授、東北メディカル・メガバンク機構など全国の研究機関および大学病院・基幹病院と共同で行ったもの。研究成果は、米国科学誌「Gastroenterology」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
近年、HCV感染症に対する治療法は劇的に進歩し、従来使用されてきたインターフェロンを用いない直接作用型抗ウイルス薬の組み合わせによる著効率は90%を超え、難治であった肝硬変患者においても同等の治療効果が得られるようになった。しかし、ウイルス排除により肝発がんリスクは減少するものの、完全にリスクが消失することはなく、5年累積肝発がんは2.3~8.8%であり、ウイルス排除後の発がんの予測と予防が重要な課題となっていた。
TLL1 SNPの遺伝子型を測定することで、肝がんの早期発見・治療に寄与
研究グループは、抗ウイルス療法によりHCVを排除した肝発がん患者および非発がん患者943例の血液検体・臨床情報を全国の共同研究施設より収集。ゲノムワイド関連解析法(GWAS)を用いて全遺伝子にわたって約60万か所の塩基配列の違いを解析した。その結果、4番染色体に位置し、TLL1(トロイド様遺伝子1)遺伝子内に存在する一塩基多型(SNP)が肝発がんに強く関連することを見出したという。
さらに詳細に臨床データを解析したところ、このTLL1 SNPの遺伝子型と、従来報告されている危険因子を組み合わせることにより、より明確に肝発がんを予測するモデルを構築することに成功。この遺伝子は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)から肝線維化・肝がんを引き起こすモデル動物で誘導されており、実際のC型慢性肝炎患者でも肝線維化進展に伴って上昇することが明らかになった。すなわち、TLL1は肝星細胞活性化あるいは肝線維化進展に伴って強く誘導され、肝がんは肝線維化の進展した肝硬変の状態から発症しやすいことから、TLL1遺伝子は主に肝線維化進展を介して肝発がんに寄与している可能性が示唆されたという。
この研究成果により、臨床面においては、今回同定したTLL1遺伝子型を測定することによって、HCV排除後の肝発がんリスクの高い患者群を絞り込むことが可能となり、肝がんの早期発見・早期治療につながるものと考えられる。また、さらなる研究により、HCV排除後やB型肝炎、NASH、糖尿病などのその他の疾患を原因とする肝発がんのメカニズムの解明、新規の治療法の開発も期待されると、研究グループは述べている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース