損傷脳の意欲障害のメカニズムわからず、候補薬さえも挙げられず
慶應義塾大学は2月2日、マウスを用いた実験で意欲障害の原因となる脳内の部位を特定したと発表した。この研究は、同大学医学部精神・神経科学教室の田中謙二准教授、三村將教授、生理学教室の岡野栄之教授、北海道大学大学院医学研究科の渡辺雅彦教授、防衛医科大学校の太田宏之助教、生理学研究所の佐野裕美助教らの共同研究グループによるもの。研究成果は、総合科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。
画像はリリースより
認知症などの神経変性疾患、脳血管障害や脳外傷などの脳の障害では、いずれも高い頻度で意欲障害が認められる。いわゆる「やる気がない」という症状であり、リハビリテーションの阻害因子として患者本人のQOLを低下させるのみならず、介護者の意欲を削ぐ要因にもなる。
うつ病の意欲障害には、抗うつ薬という治療の選択肢があるが、損傷脳の意欲障害にはどの薬が有効で、何が無効かなど治療薬選択について全くわかっていない。そのひとつの要因として、損傷脳の意欲障害がどのようなメカニズムによって発生するのか全くわかっていないため、候補薬さえも挙げられない状況だ。
意欲障害モデル動物を用いて、意欲障害を改善する薬剤の探索が可能に
研究グループは、脳の特定部位である線条体の損傷によって意欲障害を起こす頻度が高い臨床結果を参考にして、線条体を構成するひとつの細胞集団、ドパミン受容体2型陽性中型有棘ニューロン(D2-MSN)に注目した。実験者が任意のタイミングでD2-MSNを除去することができる遺伝子改変マウスを作出し、意欲評価の実験を行った。マウスの意欲の評価には比率累進課題と呼ばれる餌報酬を用いた行動実験を用いた。あらかじめマウスに課題を学習させておき、マウスの意欲レベルを調査。その後、D2-MSNだけに神経毒を発現させて徐々に細胞死させたとしている。
その結果、線条体の腹外側の障害で、かつ、その領域のわずか17%の細胞死によって意欲障害が起こることがわかった。研究グループは、神経毒以外の方法、すなわちオプトジェネティクスによるD2-MSNの機能抑制、オプトジェネティクスによるD2-MSNの破壊という2つの異なる方法によっても、腹外側線条体のD2-MSNが意欲行動に必須であることを見出した。
今回の研究により、損傷脳の意欲障害のモデル動物が樹立できた。今後は、このモデル動物を用いて、意欲障害を改善する薬剤を探索することができると、研究グループは述べている。
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