アミロイドβオリゴマーの除去により神経細胞の異常変化を回復
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は1月31日、アルツハイマー型認知症の発症に大きく関わるアミロイドベータタンパク質(Aβ)の集合体(Aβオリゴマー)によって引き起こされるタウ異常を含む神経細胞の異常な変化が、Aβオリゴマーを除去することによって回復しうることを、実験モデル系を用いて初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同神経研究所疾病研究第六部の荒木亘室長らの研究グループによるもの。研究成果は「Molecular Brain」オンライン版に1月31日付けで掲載されている。
画像はリリースより
アルツハイマー型認知症の国内患者総数は250万人以上と推定されており、人口の高齢化に伴い著しい増加傾向がみられている。同疾患ではAβが線維化して老人斑と呼ばれる塊となって蓄積、その影響で神経機能の異常が現れると考えられており、特に神経細胞の軸索を構成するタウタンパク質の異常凝集物(神経原線維変化)の形成やシナプスの減少などの異常は、病気の進行に深く関わっている。
最近の研究から、Aβは線維化の前段階でオリゴマーという集合体を形成しており、このAβオリゴマーが神経細胞を障害することでタウタンパク質やシナプスの異常変化を惹起、神経細胞内の物質輸送、神経細胞間の情報伝達機構が障害された結果、記憶障害などの認知機能異常の症状が現れると考えられている。そのため、できるだけ早い段階でAβの蓄積を抑える治療の重要性が指摘されているが、それによる病態回復の可能性については明確な実証がされていなかった。
今後は毒性作用を低減する新規薬剤の開発を目指す
研究グループは、アルツハイマー型認知症の病態を反映した神経細胞モデルを用いて、Aβオリゴマーによる神経障害の回復可能性について検討するため、ラットの胎児脳由来の神経細胞を9日間培養した後、比較的低濃度のAβオリゴマーで2日間処理。Aβオリゴマー処理を継続する群と、Aβオリゴマーを含まない培養液に交換してAβオリゴマーを除去する群に分け、さらに2日間培養した。
その結果、Aβオリゴマー処理を継続した細胞では細胞死誘導性変化は増悪し、タウタンパク質、βカテニンの異常が持続。一方Aβオリゴマーを除去した細胞では、細胞死誘導性変化、タウタンパク質の異常が無処理の対照と同程度まで回復し、βカテニンの異常も部分的に回復したという。この結果は、Aβオリゴマーが主に細胞外から毒性作用を発揮しており、その結果生じる細胞内の障害性変化は可逆的で、Aβオリゴマーを除くことにより回復可能であることを示唆しているという。
アルツハイマー病では、発症の10年以上前からAβの蓄積が始まっており、軽度認知障害の段階ですでにAβの蓄積が進行していることがわかっている。現在、Aβオリゴマーの蓄積抑制作用を持つ薬剤の開発が進められているが、早い段階で治療介入を行うことにより、アルツハイマー病態の進行を防ぐとともに、認知機能障害の回復を図ることができる可能性がある。研究グループは、Aβオリゴマーの蓄積を抑制する以外に、Aβオリゴマーの毒性を低減することも治療につながると考えており、Aβオリゴマーの毒性作用メカニズム解明に取り組むとともに、Aβオリゴマーの毒性作用を低減するような新規薬剤の開発を目指した研究も進める予定としている。