培養液に添加するのみ、従来法と同等以上のヒト多能性幹細胞接着が可能に
京都大学は1月31日、培養基質のコーティング処理を必要としない、ヒト多能性幹細胞(ES細胞・iPS細胞)の拡大培養法を開発したことを発表した。この研究は同大学ウイルス・再生医科学研究所の末盛博文准教授、物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の宮崎隆道特定拠点助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に1月30日付けで掲載されている。
画像はリリースより
ヒト胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞のような多能性幹細胞を創薬や細胞治療などに応用するには、非常に多くの数の細胞を生産する必要がある。これら多能性幹細胞を拡大維持するには、培養容器への多能性幹細胞の接着性を高め、生存性を向上させるのに適した培養基質を、容器内にあらかじめコーティングしておく必要がある。多能性幹細胞の維持培養に適した培養基質としては、ラミニン511の組換えタンパク質断片、ラミニン521やビトロネクチンが知られているが、これら培養基質の容器へのコーティングには通常、培養細胞を移し替える、継代の直前に1時間から一晩、緩衝液に溶解させた状態で恒温処理する工程を必要とするため、多能性幹細胞の培養操作には時間と手間を要していた。
創薬研究や細胞療法の実用化の加速に貢献も
今回同研究グループは、多能性幹細胞の維持培養に効果的とされる3つの培養基質、ラミニン511断片(iMatrix-511)、ビトロネクチン(rhVTN-N)、ラミニン521(laminin-521)を用い、コーティング処理した場合と添加法で使用した場合の、多能性幹細胞の接着を比較した。その結果、培養基質の培養容器へのコーティング処理を不要とし、多能性幹細胞を継代する際に培養液にラミニン511断片溶液を添加するのみで、これまでと同様に安定した多能性幹細胞の接着培養が可能になることを発見。さらに、ラミニン断片を添加法で利用するほうが、従来のコーティング処理よりも少ない使用量で、多能性幹細胞の最大接着効果が得られることを明らかにした。また、使用した培養基質の中で、ラミニン断片のみが添加法で効率的に機能することもわかったという。
ラミニン断片を培養基質として用いる培養法は、ヒトiPS細胞の樹立や維持拡大など、国内の基板技術として広く普及しているが、今回の成果は従来の培養法を利用しているほとんどの操作に適応できる可能性があるという。同研究グループは、ヒト多能性幹細胞利用の低コスト化と細胞培養操作の簡便化に繋がり、将来的にはその効果で、ヒト多能性幹細胞を利用した創薬研究や細胞療法の実用化が一層加速することが期待できると述べている。
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・京都大学 研究成果