歯周組織の効果的な再生法開発は歯科臨床の課題
東京医科歯科大学は1月30日、発生・成熟後の歯根膜の恒常性維持に必要な遺伝子を発見したと発表した。この研究は、同大学大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野の浅原弘嗣教授、篠原正浩講師、佐藤天平特任助教らの研究グループが、同研究科顎顔面矯正学分野の森山啓司教授、幸田直己大学院生および医歯学研究支援センターの市野瀬志津子特任助教と共同で行ったもの。研究成果は、国際科学誌「Development」に掲載されている。
画像はリリースより
歯根膜は歯と骨を繋ぐ結合組織で、咬合力・歯科矯正力といった様々な力学的負荷を受けとめるだけでなく、歯槽骨・セメント質など周囲歯周組織へ栄養を供給する役割も担っている。歯根膜の持つこれらの多くの機能から、歯根膜が歯周組織における恒常性の維持に必要不可欠であることは広く知られているが、その発生や再生メカニズムには不明な点が多く、さらなる基礎研究による知見の集積が求められている。また、慢性歯周炎などで失われた歯周組織の再生は困難な場合が多く、歯根膜を含む歯周組織の効果的な再生法開発は、歯科臨床における大きな課題となっている。
研究グループではこれまでに、腱を構成するI型コラーゲンや腱線維を繋ぐプロテオグリカンの産生に必須となる腱・靱帯特異的遺伝子Mohawk homeobox(Mkx)を発見、Mkxノックアウトマウスでは腱・靱帯の菲薄化も確認している。歯根膜も腱・靭帯と同様にⅠ型コラーゲンに富み、歯と骨という硬組織を繋ぐという類似した働きをしている。これらの共通点から、研究グループは、Mkxが歯根膜に与える影響について研究を行ってきた。
転写因子Mkxの発現制御による歯根膜の再生や人工的歯根膜の開発へ
研究グループは今回、世界で初めて転写因子Mkxがマウスの歯根膜でも強く発現していることを明らかにした。Mkxノックアウトマウスを用いた解析では、高齢(12か月齢)になるに従って歯槽骨の破壊を伴う上顎第一臼歯の歯根膜腔の拡大が認められ、多核巨細胞も多く認められたという。
また、電子顕微鏡による形態学的解析では、高齢のノックアウトマウスの歯根膜に存在するコラーゲン線維は細く、断面形態も不整であり、変性を示していることを確認。これらの結果から、線維芽細胞を主体とする多種類の細胞集団である歯根膜細胞の性質や形態の変化が示唆されたため、光学顕微鏡で解析を行ったところ、ノックアウトマウスの歯根膜腔に存在する細胞の形態は一様に大きく変化し、均一な紡錘形を示していたという。野生型と比較してノックアウトマウスは加齢に伴う歯根膜の退行性変化が加速することから、転写因子Mkxは、歯根膜の細胞集団の骨形成細胞への分化を制御することにより歯根膜コラーゲン線維の加齢変性を抑制し、歯根膜の恒常性の維持に重要な役割を担うことが明らかとなった。
この転写因子Mkxの発現を人為的に制御することで、効果的な歯根膜の再生療法や人工的歯根膜の開発につながる可能性があるという。慢性歯周炎の新規治療法や、矯正歯科治療における歯の移動量の調節等にも応用できる可能性を持つことから、広く歯科臨床への貢献が期待できると、研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース