水俣病の病態解明と治療開発につながる発見
新潟大学は1月25日、メチル水銀中毒の動物モデルを用いて、血管内皮増殖因子(VEGF)が水俣病で侵される小脳や後頭葉に強く発現し、脳血管を破綻することを初めて発見したと発表した。この研究は、同大学脳研究所神経内科の高橋哲哉助教および下畑享良准教授らと国立水俣病総合研究センターとの共同研究によるもの。研究成果は「PLOS ONE」に掲載された。
画像はリリースより
メチル水銀中毒は水俣病や新潟水俣病として知られているが、発展途上国を中心に金の採掘などに関連した水銀による健康被害が今なお散発的に発生している。メチル水銀中毒の治療は急性期治療と慢性期治療に大別され、前者は発症早期の治療、後者は後遺症に対する緩和療法となる。急性期治療ではメチル水銀を体内から排泄するキレート剤しかなく、その効果は不十分でふらつきや視野狭窄などの後遺症をもたらすため、急性期治療薬の開発が望まれていた。
一方で、水俣病や新潟水俣病では、小脳、後頭葉、中心後回が障害されやすいものの、そのメカニズムは不明であり、このメカニズムの解明が新たな治療法の発見につながる可能性が示唆されていた。
抗VEGF抗体投与で運動機能障害が改善
同研究グループは、過去に水俣病重症例の患者剖検脳において、脳のむくみや出血がみられたことに着目。メチル水銀が従来報告されてきた神経細胞だけでなく、血液脳関門も障害するという仮説を立てて、ラット急性期メチル水銀中毒モデルを用いた検討を行ってきた。
同研究グループは、ラットを5つのグループに分け、メチル水銀を投与しないグループと、1~4週間それぞれ投与し中毒症状を示すグループで、脳のさまざまな部位におけるVEGFの発現を確認。その結果、VEGFは水俣病で障害のみられる小脳・後頭葉で増加し、特に小脳における顕著な発現が認められたという。VEGFは血管バリア機能の破綻を起こすが、実際に小脳では血管内の物質が脳組織へ漏れ出していることを確認できたという。このため、メチル水銀中毒に伴う血管内の有害物質が脳内に漏れ出して神経障害が生じると考えられた。そこでVEGFの作用を中和する抗VEGF抗体をメチル水銀中毒ラットに投与したところ、運動機能の障害に改善がみられたという。
これらの成果は、水俣病の病態解明と治療開発につながる発見となるとして、VEGFを抑制するさまざまな方法を検討し、メチル水銀中毒に対する治療の効果と安全性を確認し、臨床応用につなげていきたいと、同研究グループは述べている。
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