過去最大規模の約3,000人の日本人双極性障害サンプルを用いて解析
日本医療研究開発機構(AMED)は1月24日、双極性障害のリスク遺伝子同定を目的に、日本人サンプルでは過去最大規模となる約3,000人の双極性障害サンプルと、約6万人の対照者を用いた全ゲノム関連解析を行い、新規リスク遺伝子の同定に成功したことを発表した。この研究は、藤田保健衛生大学医学部精神神経科学の池田匡志准教授、岩田仲生教授、理化学研究所統合生命医科学研究センターの久保充明副センター長、高橋篤客員研究員、鎌谷洋一郎チームリーダーらを含め、32の大学・施設・研究チームが共同で行ったもの。研究成果は「Molecular Psychiatry」オンライン版に1月24日付けで掲載されている。
画像はリリースより
双極性障害は、うつ状態を呈するうつ病エピソードと、躁状態を呈する躁病エピソードを繰り返す疾患で、有病率は100人に1~2人程度。現在、治療は炭酸リチウムや新規抗精神薬などの気分安定薬を用いる薬物療法が主体となっているが、再発率が高いなど根本的な治療とはいえない状況が続いている。
一方で、双極性障害の発症には遺伝的要因がかなりの割合で関与することがわかっており、遺伝的リスクを検討する多くの研究が行われてきたが、日本人を対象とした解析では他の報告よりも極めて小規模のサンプルのため、リスクはひとつも同定されていなかった。
脂質代謝異常との因果関係解明で新規治療法開発の可能性も
同研究グループは、藤田保健衛生大学を中心に全国の大学・施設が参画するコンソーシアムadvanced COSMO(Collaborative Study of Mood Disorders)と共同で双極性障害のサンプルを収集。対照となるサンプルは理化学研究所が参画するBioBank Japanの結果を用いた。最終的に2,964人の双極性障害と、61,887人の対照者のサンプルを用い、全ゲノム上を網羅する一塩基多型(SNP)を約90万個決定し、全ゲノム関連解析を行った。その結果、唯一11番染色体のFADS遺伝子領域に有意な関連を同定。このFADS遺伝子群の多型は、他の報告によると、コレステロールや中性脂肪、魚などに含まれるω3不飽和脂肪酸(PUFA)、べにばな油などに含まれるω6 PUFAなど、脂質に関連する物質の血中濃度と強く関連することがわかっている。以前より双極性障害と脂質代謝異常との関連が指摘されているが、今回の結果から、両者が遺伝的なリスクとして共通していることも考えられるという。
今回の研究成果により、脂質代謝異常との因果関係が解明できれば、脂質代謝に関して食事などで介入することで、双極性障害発症へ予防的な介入ができ、現在行われている治療においても、脂質代謝への介入が有用な可能性もあるなど、新規の治療法として役立つ可能性もあるという。
さらに、サンプル数拡充のため白人を中心とした結果と結合させたところ、新たにNFIX遺伝子近傍にもリスク領域を同定。遺伝学的に民族を超えた共通性や共通しない部分を総和的に解析していくことが、新たな診断分類の基盤になる可能性もあると同研究グループは述べている。
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・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース